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滑り込んだシブキは開いた左の手を岩の方へ伸ばし、力強い言の葉で滝水の防壁を展開する。轟音を立て龍たちを守るその激流は、角獣の放った岩の弾丸を容易く打ち砕いた。
「いけ、グレン!」
「ああ」
小さく、けれど強い意志を宿して。グレンの纏う波動が一層深い色となっていく。
それは使用者の言葉をもって、完全なる業火と化す。
「"クリムゾンインフェルノ"」
決して大きくはないその声は、直後顕現した業火の燃えたぎる音に掻き消された。
晴天の下、夕焼けよりも紅い炎龍が、跳躍する。
角獣の頭上を優に跳び越え、剣を振り下ろし急降下。隕石の如し斬撃は角獣の顔の肉を削ぎ落とす。
剣から移った炎が追い討ちとばかりに派手な爆発を起こした。
「……小癪な」
零された角獣の悪態。
抉られた顔の右半分が焼け爛れ、その容姿と波動は禍々しさを増していた。
――戦場において、慄くことは死を意味する。
わかりきった龍の中での常識を、それでも一瞬意識できなくなるほど、その巨獣は悍ましく映った。
刹那の硬直を角獣は見逃さなかった。当然だ。彼もまた、戦場を長く生きてきた龍なのだから。故にシブキの追撃はワンテンポ遅れて空を切った。
後ずさるというよりも立て直すように後退し、角獣の後脚が、強く、重たく、地面を蹴りつけ。
突進? 猛進? そんな生易しいものではない。
それは怨念だ。執念だ。
地鳴りがする。足下が揺れる。
そうも恐れに呑まれていては、猛獣の凶器から逃れられない!
いち早く理性を取り戻していたシブキの、激流を纏う剣撃――"ラピッズブレイド"が角獣の右後脚を抉った。
確かにそれは獣の肉を抉ったはずだった。だが、そんなことは些事だ。角獣には獲物しか――ターゲットたる日向しか見えていない。故にそれを阻むことは叶わなかった。
「ッ、誠司!」
叫んだ炎龍の思考が高速で回転する。彼の視界だけがスローになる。この勢いでは、日向の"火花"や勇輝の"精神拘束"も間に合わないだろう。
日向誠司は人間だ。彼は龍ではない。当然、こんな一撃を喰らってはひとたまりもない。この状況下、最善の行動はひとつ。
角獣のツノが日向を貫くことはなかった。
かわりに、寸前で角獣の先を走ったグレンが彼を押し退け――その強烈な一閃を、喰らう。
「――ッ、ぁ……!」
声は出なかった。
死の象徴であるかのような角獣のツノが、グレンの腹を深々と貫き通していたのだ。
「グレン‼︎」
日向が珍しく声を荒らげる。角獣が忌々しげに振り落とした相棒の身体を、咄嗟に受け止める。息は、ある。
「グレン、おい、お前……!」
「……お、れはいい……から、敵を……!」
絞り出した声が痛々しく掠れている。それでも彼はまだ、この戦いを放棄したわけではないようだ。
躊躇いを見せる日向の耳に届いたのは、炎龍の兄の声だった。
「日向。弟は任せたぜ」
シブキの波動は一切の揺らぎを見せず、ただ凪いでいる。いっそ不気味なくらいに静かな彼の波動はどこか冷たい。
その青い双眸は、明確に怒りを宿している。
しん、と訪れる静寂。同時に、彼の右手に握る剣が陽光に照らされて輝く。海色の波動が、収縮し始める。
彼に向けて、角獣の岩の弾丸が放たれた。しかし。
「龍術――"爆弓"ッ!」




