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わずかとはいえ感じた、肉が抉られる感覚に顔をしかめつつも、素早く体勢を低くしてブレイクダンスにも似た足払いで反撃する。棘が刺さるのさえ厭わない回し蹴りで、ヤマオロシはバランスを崩し無様に転倒した。
「そら、大人しくしてろッ!」
痛みを耐えるように上げた怒声のあと、シブキの剣がヤマオロシの頭を叩きつける。硬質の頭蓋をかち割ることは叶わなかったが、それでも気絶に持っていくには足りた。
今は確実に敵を葬るよりも、相棒の援護が優先だ。目を回して倒れ込むヤマオロシを無視して、シブキはさっと振り向く。
二体を相手にしていた勇輝が、一体を"射光線"で牽制していた。だがその頭上、畳みかけるようにもう一体のヤマオロシが勇輝の頭上を狙う。
瞬時に状況を把握して、シブキの足が前に出る。先の戦闘で傷を負った左足を気にするそぶりもない。
瞬き一つの間に、水龍は勇輝を襲おうと空に跳んだヤマオロシの真下を陣取る。剣を持たない左手に波動が集中する。
「"ライジングフロウ"!」
一声、同時に噴き出す水流。上向きに放つ高圧のそれが、ヤマオロシの身体を上へ押し戻した。
溺れそうになりながらもなんとか離脱したヤマオロシは、怨めしげな顔をして距離をとる。他の二体も隣に並んで、シブキたちとヤマオロシ三体が改めて対峙する。
しばらく睨み合ってから、ギギッと耳障りな鳴き声を残してヤマオロシたちは逃げ去って行った。
「ッおい、待て!」
「やめとけ相棒」
咄嗟に追おうとした勇輝だったが、シブキに制されて足を止める。
「だが」
「こっちは二人、向こうは上位種一体に中位種三体だぜ? それに、どうも奥の手を隠してるようにしか思えねえ。深追いは禁物だ」
そう諭すシブキの全身には赤色が散見する。抉られた肩口は治り始めているものの、足からはまだ鮮血が流れていた。痛々しい戦いの痕を見てしまっては、勇輝としても黙る他あるまい。
「……わかった。ひとまず支部長に連絡する」
「おう。頼むぜ」
ターゲットを取り逃した悔しさはシブキも同じだ。しかしこれ以上の戦闘は危険が高い。
事実、角獣が早々に退いたからよかったといえ、ヤマオロシたちと同時に襲いかかられたらどうなっていたことか。
携帯に向かって淡々と業務報告をする勇輝の隣で、シブキの思考が回り出す。
――角獣には、いくらなんでも隙が多すぎた。
あれで本気ということはありえない。去り際の、ヤマオロシどもを呼び寄せた大咆哮は、間違いなく余裕の証だ。
だが本気でなかったとしたら、何が理由だ?
「……はい。よろしくお願いします」
シブキが答えにたどり着く前に、勇輝が柚木への報告を終わらせた。
相棒が端末から耳を離したのに気づいたシブキは、一旦思考を中断する。
「終わったか」
「ああ。しばらく警戒を続けろ、と。支部の方も、角獣の動向に引き続き注意を払うそうだ。次からは応援要員も残しておくとも言っていた」
「りょーかい。サンキューな」
「……それにしても、思ったより強くなかったが」
おもむろに勇輝が切り出した話題はやはりというべきか、シブキが先ほどまで考えていた疑念だ。




