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(……市街地ってーと、簡単に撤退なんてできねえだろうなあ)
いざとなれば相棒だけでも。そういう選択肢を迷わず選んでしまうのが、シブキという水龍だ。無論、そんなことを当の相棒が許すはずもないのだが。
片割れの思惑に気がついたのか否か、勇輝の視線がちらりとシブキに向いた。しかしそれも束の間、勇輝はすぐに端末に向き直り柚木に返答をする。
「李渦公園付近ですね、わかりました。追って連絡します」
言い終わると勇輝は通話を切った。
「また李渦公園か。場所が偏ってんのも嫌な感じだぜ」
「そうだな……。とにかく、行くぞ」
「おうよ」
わずかに早まる鼓動を隠して、二人は目的地へと足を速めた。
平日の昼過ぎの李渦公園にそこまでの賑わいはない。だが大抵、親子の一組や二組くらいはいるものだ。今日そうした姿が見えないのは、雨が降った直後だからか、それとも――辺り一体に漂う、得体の知れない気配のせいか。
シブキと勇輝が到着した頃、公園の周囲は不気味な波動に覆われていた。波動に敏感でない一般人でも気づく、何か異様な雰囲気。
強い力を持つ上位種異獣が出現する直前の、空間を支配する歪な圧迫感がある。
ただの人間でもわかるほどなのだから、当然シブキたちにもそれは強く感じられた。警戒を強める。
「間違いなく潜んでいるな、これは」
「……待て、勇輝。静かに」
シブキの警告に訝しみながらも口を閉ざす勇輝。
水龍は探るような鋭い視線を張り巡らす。聞こえたのだ。
――刹那、公園の近くの木陰から、怨念のような唸り声が上がる。
「来るッ‼︎」
シブキがそう叫んだのと、化け物が現れたのはほぼ同時だった。
凶悪なツノを前に出し突進する化け物の狙いは勇輝。しかし勇輝が串刺しにされるよりも早く、シブキの足が動いた。咄嗟に相棒の腕を引き、大きく後退する。
間一髪で不意打ちを躱してみせたシブキの目に宿るタンザナイトと、化け物――角獣の紅く滾る双眼が交差する。
「ふむ……なかなかの腕前だな。龍魔の水龍殿」
空気ではなく波動を揺らして放たれた声は、低く重圧感のあるものだった。どこか威嚇にも似た賛辞だ。
それはまさに角獣の名にふさわしい姿である。
オオトカゲにも似た、牙の生え揃うドラゴンの頭部。鼻の頭に一本、額に三本生えた鋭いツノ。肩と背中、尻尾の先にも棘のような凶器がある。アジアゾウくらいの三メートルの巨体が、二人の勇者を見下ろしている。
しかしシブキとてこの程度で怯みはせず、ニヤリと不敵な三日月を口許に浮かべた。
「おっと、俺をご存知かい? そりゃ光栄なこった」
「何、貴様の兄と少しばかり因縁があるだけだ」
シブキの兄とは、ヒョウともう一人――副支部長・錦の契約龍である、龍魔鴉黒斗のことだろう。
兄たちが持つ角獣との「因縁」とやらは、シブキには初耳だった。
「さあ、そいつは知らねえけど。まあでも、俺もアンタの相方とは色々あったんでね」
角獣の対となる異獣がいる。それも昔は龍であった者だ。白獣と呼ばれるその異獣は、シブキにとって紛れもなく仇と呼べる存在である。
睨み合った両者の間にしばしの沈黙が訪れる。先に口を開いたのはシブキだった。
「んじゃ、はえーとこ……」




