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 目目連の一件以降、由紀は相変わらず龍と龍使いの事情に興味津々ではあるものの、好奇心で戦いの場についてきたりすることはなくなった。それだけでも大きな成長だ。


 少し間を置いてから、シブキが「さて」と話を切り出す。


「ちょっと勇輝と打ち合わせしときてえな。わりィが由紀、席外してもらってもいいか?」

「えぇー……でも佳純いないし……」

「駄々をこねるな。こちとら()()だ」

「うっ……それはさすがに言い返せないッ」


 いつもなら勇輝の高圧的な態度には文句で返す由紀だが、その一言には白旗を上げざるを得なかった。悔しそうに拳を握りながらも反論はせず、うーうー唸るのに留めている。


 十秒ほどしてようやく踏ん切りがついたらしく、「また今度お昼一緒しようね!」と言い残して慌ただしく自分の教室へ走り去る由紀。残念そうではあったが落ち込んではいなそうだ。


 由紀の背を見送ったあと、再度勇輝が口を開いた。


「シブキ、角獣の基本情報は?」

「元龍種の異獣だ。龍だった時の種族は獣龍族、波動属性は岩。数千年前に異獣化してる。天下の犯罪者、八岐大蛇に付き従ってたヤツさ」

「八岐大蛇……ただの伝説ではないんだな」


 勇輝の知る八岐大蛇といえば、日本神話に出てくる八つの首と尾を持つ大蛇の怪物だ。八塩折之酒で酔い潰れたところをスサノオノミコトが退治した伝説は、龍を知らぬ人々の間でも有名な話である。


「昔じゃ腕の立つ戦龍だったって聞いてるけどな。今じゃ厳重に封印されて、上位種異獣の中でも最高警戒レベルのバケモンさ。当然、側近だった角獣の封印も強かったはずだが……」

「突破して人間界に現れた、と。……不穏だな」

「ああ。しかも例の――特殊個体の異獣が出てきたばっかりだ」


 時期が重なる。それはただの偶然か、或いは必然か。何かの火蓋が切られたような、そんな予感がした。


「……杞憂、だといいが」


 小さな声で呟いたシブキの目線は、廊下の窓の外へと走る。いつの間にか降り始めた雨が、静かにガラスを濡らしていた。






 五時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。担当教師が去っていったあと、シブキと勇輝は荷物を背負い足早に教室を出る。


 階段を半ば駆けるように降りて昇降口へ。幸い雨は止んでいる。湿気た匂いがする校庭を横目に、二人は校門へと急ぐ。


 門を出てすぐ、勇輝が端末を取り出して柚木に通話を繋いだ。音声をスピーカーに切り替えているので、隣を歩くシブキの耳にも声が届く。


『もしもし? 柚木だけど、勇輝くん学校は?』

「早退しましたよ。シブキも一緒です。悠長に授業なんて受けてる場合じゃないでしょう」

『申し訳ないけど助かるよ。ひとまず反応の強い場所を伝えるけど、応援は多分間に合わない。無理はしないでくれ』


 早口だが冷静な声で柚木が告げる。その声は普段の穏やかな好青年という印象ではなく、歴とした指揮官のそれだ。


『反応は李渦公園の付近から。さっきより強くなっているから、顕現まで時間はないだろう。だけど相手は元龍種だ、最悪牽制だけでもいい。危険になったら退くこと』


 落ち着いた指示を聞きながら、シブキは柚木の信条を思い出す。


 柚木は犠牲を出す戦法を嫌っている。だからこそ退けと言うのだろう、が。

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