第六話「悪龍現る」 1/7
規則正しいリズムで鐘の音が放送される。昼休みを告げるそれが鳴り終わったと同時に、教室を飛び出る少女が一人。
階段を駆け上って目指した部屋に到着すると、勢いよくその戸を開く。
「失礼しま〜す! 龍魔先輩いますか!」
「はやッ……」
呼ばれた張本人はその迅速さに驚愕している。教室に訪れる一瞬の静寂と、若干のざわめき。
シブキの前に座る生徒が振り向いた。ニヤついている。
「あの子、毎日来るよなー。すげえ懐かれてんじゃん。結構かわいいしー、やっぱそういう?」
「ちげーっての。ったく……」
残念ながら、シブキと由紀は恋仲でもなんでもない。由紀の一方通行だ。
それでも人がいいシブキはのそりと立ち上がり、相棒の座席へと向かう。
「おい勇輝、終わって早々でわりィけどいいか?」
「……また、田村か」
わかりやすく勇輝の眉間に皺が寄る。
「オメーも連れてくから拗ねんな」
「いや……単純に鬱陶しい」
「まあわかるけど、さすがにかわいそうだろ」
「まったくお人好しだな、お前は……」
勇輝も渋々席を立ち、教室の出入り口で待つ由紀の元へ歩く。
由紀はシブキを見ると満面の笑顔を浮かべた、が。
「やっほー、シブキくん!……ついでに黒神ぃ」
後ろに控える勇輝を見た途端、顔が歪む。勇輝といい由紀といい、わかりやすいものである。
対する勇輝は由紀のあからさますぎる表情をものともしない。
「当たり前だろう? 相棒、なんだから」
「マウントが露骨‼︎」
「まーた始まったよ」
呆れて苦笑を浮かべつつも、賑やかな少年少女を引き連れながら教室を出るシブキの姿は心なしか楽しげだ。
購買で昼食用のパンを購入した。シブキと勇輝はカレーパンと焼きそばパンを二つずつ、由紀はメロンパンとクリームパン。各々が買ったものを袋に入れ、廊下を進む。
「佳純が休みだと暇なんだよねー。クラスの女の子とは合わないしさあ」
右手に持った袋を弄りながら、由紀が言う。その言葉に首を傾げたのはシブキだ。
「へえ。交友広そうだけどな、お前」
「んーん。めっちゃ仲悪い! って子はいないけど、仲良しなのは佳純くらいだよ。他の子はさ、なんていうかこう……腹黒い? っていうか」
「あー……"勘"、か」
由紀の説明は曖昧だったが、シブキが理解するには十分だった。
彼女の持つ"勘"は波動を察知する力そのものだ。裏表のある人間の歪な波動も、由紀には透けて見えてしまうのだろう。
「……あ、そういえば!」
波動に鋭い由紀を案じたシブキだったが、当の本人はお構いなしだ。話題は変わり、珍しく由紀の視線が勇輝とかち合う。
「…………なんだ」
「この前変な蝶出たじゃん。あの時黒神がやってた、ぺかーって光るやつ、なに?」
……またも抽象的な表現である。由紀らしいといえばまあ、由紀らしいが。
変な蝶、というのは先日出現した中位種異獣・オオアゲハのことで恐らく間違いない。光るやつ、というのは?
「……ああ、"射光線"のことか。馬鹿には難しい話になるが?」
「ばっ……この頭でっかち!」
「あーうっせー。やめとけお前ら」




