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「じゃあ今度、挨拶も兼ねて行ってもらってもいいかい? シブキたちは波動のない異獣の三件、ほぼ全部に関わってるしね。君たちから話した方がセンリさんとしても都合がいいだろう。律也には頼みにくいし」
「おう」
「わかりました」
二人分の返事を聞き届けたヒョウは、にこりと柔らかい笑みを返す。
「ありがとう。アポ取りはこっちで済ませておくから、日付が決まり次第連絡するよ。……さて、クサキ」
「うん?」
「そろそろ日も暮れてきてるが、シブキは帰しても大丈夫かい?」
「うーん……回復してはいるけど、毒の持ち主が特殊個体だったわけだし、念のためにも、明日まではここで安静にしててほしいかな」
「俺は大丈夫だよ」
若干食い気味に反論したシブキに、長兄の少しだけ厳しい視線が突き刺さる。それでも、案じているのははっきりとわかる表情だ。
「シブキ。万が一のことがあったとして、お前はよくても勇輝くんに迷惑をかけるんだぞ」
「…………わかった」
それを引き合いに出されてはさすがに諦めざるを得ない。少々ばつが悪そうにちらりと相棒の方を見ると、大げさにため息をつかれてしまった。
そんな弟に助け舟を出したのか否か、クサキが「じゃあ」と声をあげる。
「龍と龍使いを引き離すのもよくないし、隣室からベッドを運んでくるから、勇輝くんにも今日一日泊まってもらってもいいかしら?」
「ああ……はい。お世話になります」
「気にしないで。こういう時のために、私たち医療班がいるんだから」
ふわりと優しく笑った後、クサキは部屋を後にした。それに続くように、ヒョウも出入り口の方へと向かう。
「もう遅いし、田村さんは私たちで送っていくよ。律也を呼んでくるから、申し訳ないけど少し待っていてくれ」
「あっ、ありがとうございます」
ヒョウも医療室を去り、扉が音を立てて閉まる。
直後、由紀が脱力したように大きく息を吐いた。
「はぁ〜、ほんっとよかったぁ……シブキくんが倒れた時はどうなっちゃうかと……」
「今回ばかりは同意見だな」
「わりィ……油断しちまった」
肩身が狭そうに言うシブキに、勇輝はため息をつきながら首を横に振る。
「波動が見えなかったのはしかたがない。……ただシブキ、お前の無茶は心臓に悪いから、ほどほどにしてくれ」
不安げに揺れる紫の瞳が、窓からゆるく差し込む朱に照らされて輝く。そのせいか、僅かに潤んでいるように見える。相棒にこういう表情をさせてしまうのは心外だった。
「一応、善処はするさ」
仕事柄、断言はできないけれど。苦笑しながらそう返すシブキに、勇輝は少し不服そうな顔をしたが、これ以上の言及をするつもりはないらしい。何せ無事でいてくれたことが一番だ、あまり野暮な言葉は重ねられまい。
穏やかな時が流れていく。窓から見える夕暮れの空は、静かに三人を見守っていた。
「三件の"狂化"実験は無事成功。しかしやはり中位種では力不足……と」
薄気味の悪い地下空間、廊下を歩く二足歩行の兎が嗤う。
「目目連もあっさりやられてしまったことですし、そろそろ貴方に出て頂く必要がありそうです。よろしいですか、黒角殿」
見上げた兎の目線の先には、暗がりに光る赤い双眼。ぐるると低い唸り声が肯定を示す。
「構わん。もとよりそのつもりだ」




