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「わかってるさ。一般人を守ったお前の行動を否定しようとは思っていないよ。だけど、もう少し自分の体も大切にしなさい」
「う……」
「シブキは聞き分けいいけど、こればっかりは聞いた試しがないのよねぇ」
反論の余地はほとんど残されていないのだが、それでも言われっぱなしは癪というもの。むっとした顔でシブキは口を尖らせる。
「けど、兄さんや姉さんも俺の立場だったら同じことしてたろ?」
「それを言われると痛いねぇ。……ま、説教はこれくらいにしておくとして。お前を襲ったオオアゲハの話だけど」
その一言をきっかけに、ヒョウの雰囲気が一変した。弟想いの優しい兄から、龍使協会日本支部長の契約龍のそれに。
双眼が鋭く光って、シブキをまっすぐに射る。それを受けたシブキも表情を引き締める。
「シブキ。念のために確認するが、そのオオアゲハは波動が視えなくて、突然現れたんだよね?」
「ああ。気配すらなかった。亡霊みたいだったよ」
「……やはり、先日のクレナイスズメに似ているな。クレナイスズメといえば、今日君たちがオオアゲハ四体を倒した後に現れたクレナイスズメも、波動が視えなかったんだ。近隣の防犯カメラに実体が映ってようやく認識した」
張り詰めた空気感で兄弟の会話は進む。しかしこの場に一名、置いてけぼりを喰らっている者が。
「…………ハドーが見えない?」
「黙って聞いていろ猪。説明しようにも面倒だ」
「えぇ……」
勇輝に切り捨てられて不服そうな由紀だったが、なんとなく口を挟めるような状況ではなさそうだったので、大人しく聞き手に回ることにする。
「それで、件のオオアゲハだけど。クサキが言うには、毒の回りが早すぎる、と」
「……やっぱりか」
おかしいと思ったのはやはり気のせいではなかったようだ。医術に優れた姉が言うのだから違いない。
「他に何か、変わった動きとかはなかったかい?」
「威嚇から毒液散布までのラグが、妙に短かった。滑り込んだ後にウォールを展開するつもりだったけど、予備動作が短すぎて間に合わなかったんだ」
「そうか。例のクレナイスズメもそうだが、波動のない異獣は通常個体より優れた動きを見せているみたいだね。前例がないだけ厄介だな……」
そう言ってヒョウは何やら考え込むように眉をひそめる。彼は少しの間沈黙した後、一瞬躊躇いを見せてから、ため息とともに口を開いた。
「これは、センリさんに頼る他ないかな」
「センリさん?」
それまで空気を読んで黙っていた由紀が、聞き慣れない名前に首を傾げる。
「支部の近くに事務所を開いている探偵だよ。鳴神千里さん。人に紛れて生活している、非戦闘員の龍でね。知識の豊富な方で、昔から支部に協力してくれているんだ。……もっとも、律也が嫌がってる相手なんだけど」
「えっ、あの柚木さんが?」
小さく付け加えられたヒョウの最後の言葉に、由紀は目を丸くした。穏やかそうな柚木が誰かを毛嫌いしているとは想像がつかない。
予想通りの反応に、ヒョウは困り笑いで「悪いひとじゃないんだけどね」と返した。
「センリさん……か。噂は聞いてたけど、会ったことはなかったっけな」




