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 瞬く間に彼はオオアゲハの死角をとったが、オオアゲハも負けじと体を捻って回転し、シブキと向かい合い構える。先程と同じ、毒液噴霧の姿勢。


 しかし二度も同じ手を食うほど彼は――否、()()は弱くない。


「させるか……!」


 唸ったのは水龍の相棒である。


 言うが早いか、勇輝の"射光線"がオオアゲハを貫いた。避けられてしまい急所には当たらなかったものの、やむなく攻撃態勢を解除したオオアゲハの片翅には穴が空いている。


 バランスを崩した怪蝶に、間髪入れずシブキが一閃を食らわした。傷口から光の粒子が溢れて天空へ消えていく。


 討伐成功だ。


 安堵のため息を漏らしたシブキのもとに、勇輝が心配そうな表情で駆け寄ってきた。


「シブキ、毒は……」

「俺は大丈夫だよ。それより、あの子は?」

「お前のおかげで無事だ。ほら」


 勇輝の指す方を見ると、先刻シブキが助けた少女が、彼女の母親と思わしき女性に抱かれてこちらを見つめていた。怪我はなさそうだ。


 オオアゲハの毒はクレナイスズメの毒よりもずっと弱いが、肺に入ると細胞を攻撃して壊死させていく。オオアゲハ本体を撃破すれば毒自体は消えるがその影響までは治せないため、普通の人間では後遺症が残ってしまうことも多い。


 そんな理由もあり、シブキには少女の安否が気がかりだったが、どうやらしっかり守りきれたらしい。


 安心したのか、ずっと気を張っていたシブキの口角が緩く笑む。しかし何か、様子がおかしい、ような。


「問題なさそう……だな。よかっ、」


 不自然に声が途絶えた。


 霞んだ視界が揺れる。コンクリートの地面が、段々と近くなる。


「――シブキ? ッおい、シブキ!」


 相棒の呼び声が遠のいていく。


 どうしようもない倦怠感、圧迫感、疲労感。


 抗う術を探す暇もなく、水龍は意識を手放した。





 ゆっくりと目を開ける。無機質な白の天井が視界いっぱいに映し出された。


 かと思えば、よく知る淡いクリーム色の髪がひょこりと現れる。黄緑の瞳と視線がかち合う。それが誰だかは問うまでもないが、なんとなく不安になって、呟くように尋ねる。


「……姉さん?」

「おはよう、シブキ。具合はどう?」


 穏やかな笑みを浮かべる目の前の女性は紛れもなく彼の、シブキの姉――龍魔草樹(りゅうまくさき)である。


 龍使協会の医療班を務める草龍。柔らかな薄い色素の髪と目をそっくりそのまま反映したような、暖かくも少しふわふわした性格の名医だ。


 天井の様子と彼女の存在を鑑みるに、今自分がいるここは龍使協会支部の医療室で間違いないだろうとシブキは結論づけた。そしてそれはつまり、自分がオオアゲハを撃破した後意識を失っていたというわけである。


 己の不甲斐なさに自嘲したくなったが姉の前だ、ここは堪えなければなるまい。ひとまず姉の質問に答えることとする。


「大丈夫。……ここ、医療室だよな」

「ええ。オオアゲハの毒にやられたって、勇輝くんから連絡があったから。シブキが気を失うなんて珍しいから、ちょっと焦っちゃったわ」

「そう、か……心配かけてごめん」

「私はいいのよ。びっくりはしたけど、あなたがそれくらいで死ぬほど弱くないのは、よく知ってるもの」

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