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「市街地ねぇ……厄介だな。由紀、御神楽、危ねーからついてくんなよ!」


 それだけ言い残して、シブキと勇輝は走り去ってしまう。御神楽が呼び止める暇もなく、二人の背中はどんどん小さくなっていった。


「あっ、……足速いなあ。でもさ田村さん、ついてくるなーって言われるとさ、気になっちゃうよね」

「気になります、けど……」


 いたずらっぽく笑った御神楽の予想に反して、由紀の返答はしおらしかった。活発な彼女なら、誘いに乗ってくるかと思ったのだが。


「お、田村さん珍しく消極的だね?」

「前に……痛い目見たっていうか、心配かけちゃって…………」

「そっかあー……」


 経験則なら仕方ない。頭の後ろで手を組んで、行き場をなくした目線を空に向ける御神楽に、由紀が励ますように「でも」と言う。


「きっと大丈夫ですよ。二人とも強いので!」

「……強い…………?」


 ぽかんとする御神楽。いつもの無邪気な笑みを向ける由紀。


 どうにもこの二人、絶妙に噛み合っていないようである。






 所変わってこちらは南李渦町、小規模なスーパーマーケットの向かい、市街地。そこに飛び交う蜂が二匹。


 ただの蜂ではない。巨大な――全長一メートル程度で、角のような赤い触覚を持ち、尻から凶器にさえ似た針を覗かせる、異形のスズメバチだ。人々はすっかり怯え逃げ惑っている。


 この場で唯一、混乱に陥っていないのは二人だけ。今さっきここに辿り着いた、シブキと勇輝である。


 耳に押し当てたままの勇輝の端末から、緊張した青年の声――龍使協会の日本支部長たる男、柚木律也の声が鳴る。


『幸いまだ被害は出ていないけど、時間の問題だ。できるだけ早い対処を頼む』

「急かさずとももうつきましたよ。戦闘に入るので一旦切ります」


 ぶっきらぼうに通話を終えた勇輝は、右手に持っていた端末をしまい、かわりに自らの波動で生成した大鎌を構える。


 すでに剣を持って臨戦態勢をとっていたシブキは相方に目をやり、不敵な様子で口角を上げた。


「準備はいいかい、相棒?」

「無論」

「よし」


 たった一言、しかし確固としたその返事を受けて、シブキの両肩を覆うように海色のマントが表れる。ひらりとはためいたマントの端が首に巻きついたのを合図に、水龍と龍使いは同時に走り出す。


 巨大蜂――クレナイスズメと距離を詰めながら、シブキは周囲の人々に向かって声を張り上げる。よく通る凛とした音が、夕方の市街地に響く。


「全員、ここから避難しろ! 近隣住民はバケモンがいなくなるまで家から出るなよ!」

「……君たちは、一体」


 唖然として思わず尋ねるサラリーマンに、勇輝の鋭くも案じるような視線が突き刺さった。


「いいから早く退け。あいつに刺されれば最悪死ぬ」

「わ……わかった、だが」

「俺たちは戦い方を知っている。人の身より自分の身を心配しろ」

「…………ああ」


 こんな若い子どもに化け物の相手を任せていいのだろうか、と気が引けているのだろう。サラリーマンは躊躇いがちにしていたが、勇輝が低い声で唸るとようやく逃げていった。


 彼の放った圧に、普通の人間とは違う何かを感じたのだ。無意識のうちに勇輝の強い波動を察知し、気圧されたのである。もっとも、勇輝はそれを狙ってあえて波動を揺らしたわけだが。

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