第五話「蝶と煉獄」 1/15
空がわずかに赤みを帯び始めている。
下校時刻、李渦高校の制服を着た男女四人。他愛もない日常の風景だが、四人の中には二名ほど、普通とは程遠い仕事を生業にしている者がいる。とはいえ今はみな平等に、ただの学生だ。
「今日の数Aぜんっぜんだったなあ……勇輝、あれわかった?」
四人の中で唯一非日常に遭遇したことのない御神楽が、困ったような笑顔でそう振り返る。
話しかけられた勇輝は、表情を変えないままこくりと頷いた。
「一応。お前は文系なんだから、多少難しくても気にすることはないだろう」
「んーそっかなあ」
「私はどの授業もよくわかんないなー」
けらけらと笑い飛ばしたのはこの中では紅一点、猪突猛進の由紀だ。彼女も一般人ではあるが、御神楽と違い、シブキと勇輝のもう一つの顔を知っている。
「自信持って言うことじゃねーっての」
ため息交じりにシブキが窘める。
それに便乗するかのように、勇輝も呆れ顔で由紀を睨んだ。
「これだから猪は……」
「なっ……アンタだって意外と脳筋――」
由紀の言葉は、勇輝の携帯端末の着信音に遮られた。これ幸いとばかりに勇輝は嗤う。
「ハッ、悪いな」
「思ってないでしょその顔」
指摘通り、清々しいほどに悪い笑みである。
しかし勇輝はぶうたれる由紀をスルーして、端末の画面を少し弄った後、スピーカー部分を耳に押し当てた。
「……はい、黒神です。要件は手短にどうぞ。…………ああ、中位の。了解です、場所は?……南李渦。はい、はい」
電話をしながら、勇輝の視線がちらりとシブキに向けられる。
意図を察したシブキの眉間に皺が寄る。
「また出たか……」
「ねえ、勇輝の電話って、もしかして」
ぼそりと呟いたシブキに、御神楽が声を潜めてそう尋ねた。御神楽はシブキと勇輝の仕事の本質を知らないが、治安維持の仕事をしているという話だけは聞いている。そわそわした様子を見る限り、中途半端に開示された情報に好奇心を刺激されたようだった。
「そ。仕事の緊急要請」
「そういえばずっと聞こうと思ってたんだけどさ、その仕事って何やってるの? 警察みたいな?」
「警察、ってのはちょっとちげーけど……まあ連携もしてるし、近いモンだな。お尋ね者とっ捕まえるとか、凶暴な生き物に対処したりとか」
「へー……」
シブキは龍、勇輝は龍使いである。
この世界には異獣と呼ばれる怪物が存在して、それらから市民の生活を守るべく彼らは日夜戦っている……のだが、いかんせん一から説明するには複雑だ。
そういうわけで、二人は学校内では適当に誤魔化して伝えている。間違ったことは言っていないから問題はない、多分。
「わかりました。すぐ向かいます」
一区切りついたらしい勇輝は、端末を一旦耳から離す。先ほどよりも少し、険しい顔だ。
「柚木さんから?」
「あれ、田村さん知って――あっそっか、田村さんは勇輝たちの仕事、見たことあるんだっけ」
「そーですね……たまたま」
てへへとはにかむ由紀は、電話の相手を尋ねたことも早々に忘れている。
面倒ごとを嫌う勇輝としては、答える手間が省けてありがたい。問いは無視して相棒と目を合わせる。
「シブキ、南李渦の市街地でクレナイスズメの反応が出た。急ぐぞ」
「雀?」




