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「さて、と。大体散ったか?」
「ああ。戦闘に支障の出る範囲じゃない」
「っし。んじゃ、さっさと終わらせんぞ!」
言うが早いか、シブキは目にも留まらぬ勢いで一体のクレナイスズメに急接近する。
クレナイスズメは咄嗟に尻の針を突き出して敵を穿とうとしたが、水龍は難なく避けてクレナイスズメの背後をとる。
口元に、にやりとニヒルな三日月が浮かぶ。
「隙だらけだぜ、ってな!」
すんでのところで直撃を避けたクレナイスズメだったが、シブキの剣筋は的確にその両翅を切り落とした。
とどめを刺そうとするシブキを阻まんともう一体のクレナイスズメが襲いかかるものの、勇輝の鎌が腹に当たった感触で動きを止める。間一髪、斬り伏せられる前にクレナイスズメは上空へと避難した。
勇輝が低い声で唸る。
「上手くいくと思うなよ」
クレナイスズメの羽音がイラついたように激しく響く。重々しい轟音を立てながら、毒針を勇輝に突き刺そうと急降下していく。
しかし、つい先ほど翅の落ちたクレナイスズメを倒したシブキが割り込み、その針を素早い一閃で刻んだ。
「さて、と。あとは」
「貴様だけだ」
仲間が消滅したことを悟ったクレナイスズメの複眼二つと額の単眼が、その名を表すかのように真っ赤に光る。
異獣はいざ仇を討たんと、激昂して残った爪と触覚でシブキに襲いかかるが、剣の刃に弾かれる。
キン、キンと無機質な音が響く。平凡な町には到底似合わない効果音だ。
しかしその攻防も束の間だった。クレナイスズメの連撃は突如として終わりを告げた。
気配を消した死神の大鎌が、後ろからその腹を裂いたのだ。異形であれど虫は虫、刃の前にその装甲はあまりにも柔く、呆気なく事切れてしまう。
どさりと重量のある音を立てて落ちたクレナイスズメは、裂かれた部分から少しずつ光の粒となって空へ消えていった。
任務完了を確認したシブキと勇輝は、それぞれ武装状態を解除する。一時といえど、町の平穏は保たれた。
「お疲れ、シブキ」
「ああ、お疲、れ――」
シブキの言葉が不自然に途切れた。焦りを宿して見開かれた双眸が、勇輝の背後を捉えている。続ける言葉より先に右足が浮いた。
「ッ待て勇輝、後ろ!」
「は――」
尋常ならざるスピードで、別のクレナイスズメが勇輝へと接近していた。シブキが咄嗟に前へ出たが間に合いそうにない。
シブキの目の前で、その毒針が相棒の首筋を穿つ――寸前、クレナイスズメに火炎が放たれた。どこからか、的確に蜂を捉えた煉獄はそれをごうごうと焼き尽くし、その命に終止符を打つ。
シブキにはあまりにも見覚えのある炎だった。しかしその前に、一番気になるのは相棒の安否だ。状況が把握できていない彼の肩に手を置き、尋ねる。
「勇輝、大丈夫だったか?」
「あ、ああ……今のは」
「油断するなよ」
狼狽える勇輝に答えたのはシブキではなく、先の煉獄の主だった。
現れたのは端正な顔の青年だ。シブキと同じジャージとマント、しかし色は水色と青ではなくオレンジと赤。ハネた黒髪のシブキと違って、こちらは金髪のストレート。その手に宿すのは水ではなく、燃え盛る炎。
何もかもシブキと対照的な、真っ赤な瞳の青年。シブキと勇輝は、彼をよく知っていた。




