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 由紀の気持ちを知ってか知らでか、呆れたとも関心しているとも取れない表情で、勇輝がぼそりと呟く。


「……まだ気にしていたのか、あの女」

「……?」


 すぐ隣にいた御神楽には勇輝の独り言が聞こえたようだが、意味をわかりかねて疑問符を浮かべる。


 唐突に謝られた本人はというと、本心を読ませない微笑を浮かべながら頭を掻き、答えた。


「あー……別にいいさ。俺こそ、変に当たっちまっただろ? 悪かったな」

「ううん、そんなの全然気にしてない。……それとさ、あの…………」


 まだ、尽きない。伝えなければならないこと、聞かなければならないこと。


 今朝再会してから、由紀はずっと違和感を覚えていた。その正体を、突き止めなければならない。例えそれが、詮索と言われてしまうとしても。


「…………ヒョウさんから、聞いたよ。お母さん、亡くしてるんだ、って」


 一瞬。


 注視していなければ見逃してしまうくらい、ほんの一瞬だ。シブキの顔から感情が消えた。少なくとも由紀には、そう見えた。


 しかしそれも、きっと気のせいだったのだろう。シブキは何事もなかったかのようにけらけら笑っている。


 気のせいだったのだ、きっと。


「昔の話だよ。ったく、兄さん、わざわざ話さなくていいことなのにな。気にすんなって」


 そうだ。気にしなければ気づかない。それほど些細な波動の変化だった。


 それでも、由紀の持つ百発百中の勘とまで評される波動察知能力は、その微小な波の動きさえ感じ取っていた。


 やはり違和感がある。目目連から救い出されたあの日、シブキは由紀に対して、ともすれば嫌悪と間違えられてしまうほどの拒絶を示した。


 あれほどまでに強く拒んだにも関わらず、今は平然と、何食わぬ顔で会話している。


 失うのを恐れていたのではなかったか。母の死は深い傷となっていたのではなかったか。なのに彼はまるで、あの日のことなんてなかったみたいに。 


 けれど一瞬見えた表情は、到底平気そうには思えなかった。


 何が何だかわかっていない御神楽の隣で、唯一シブキの本心を知っている勇輝は、誰にも気づかれないようにそっと拳を握りしめた。


「シブキくん……あのあと、大丈夫だったかな、って。私、なんにも答えられなかったし」


「なんだ、そんなこと気にしてたのか? お前意外とクヨクヨするタイプ?」

「違うよ。だって、あの時のシブキくん」


 それを言うには勇気が要った。それでも。


 決意を宿した由紀の視線は、シブキから逸らされることはなかった。


「すごく、辛そうだったから」


 由紀の口が放ったその一言で、刹那シブキは蛇にでも睨まれたように、ひるんだ。


 しかしそれも束の間で。シブキは由紀の眼光から逃れるように後ろを向いてしまう。


「…………別に、大したことじゃねーよ。任務直後で気が立ってただけだ。心配してくれてありがとな」


 じゃあな、と軽快な挨拶を置いて、シブキは勇輝と御神楽の方へ歩き出す。


 逃げられてしまった由紀だったが、無理に引き留めようとはしなかった。


「……うん、じゃあね、シブキくん!」


 努めて明るい声で見送ってから、由紀は勇輝に視線を投げた。

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