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「黒神くんも速かったね」
「…………俺は別に、」
「龍魔くん、すごかったね!」
「足速いんだね、かっこいー!」
勇輝の不機嫌な返事は、ぞろぞろと集まってきた他の生徒たちの声でかき消された。
シブキとしてはある意味失敗だったので、褒められても素直に喜べず、曖昧に笑っている。
「あー……ありがとな」
「………………む」
「いじけんなよ勇輝……」
ただでさえ良くなかった勇輝の機嫌はどんどん下がっていく。わかりやすいのは結構だが、正直ちょっと面倒だ。
「ほらほら、並べー! 二回目行くぞー!」
教師の声でようやく人の群れは散っていった。しかしそれで一息つけるかというとそうでもない。もう一走、残っている。
「……もうちっと抑えた方がいいかな」
「かえって不自然になるだろう。諦めてさっきと同じくらいでやれ」
「はー……全力出した方が楽なんだがなぁ」
憂鬱だが仕方がない。在籍を希望したのは自分自身なのだから、これくらいの苦労は惜しめない。
人間に紛れて生活するのも存外楽ではないものだと、ひしひしと感じたシブキであった。
空は紅に染まって、温かみを帯びたオレンジ色が校舎を照らす。
次々と帰宅していく生徒たちの中、勇輝と御神楽は昇降口で人を待っていた。
しばらくして、ようやく当人が現れた。少し急ぎ気味に靴を履き替え、二人と合流する。
「すまん、待たせた」
「遅い」
「まあまあ、シブキくんが悪いわけじゃないんだし。じゃ帰ろっか」
一万年を生きる龍であるシブキは、知識においても身体能力においても人間の比ではない。
体育はもちろん、その他の授業でも遺憾なく実力を発揮してしまったシブキは、すっかりクラスの注目の的となった。そのせいで勇輝と御神楽も待たされる羽目になったのだ。
三人並んでようやく帰路へ着いた……のはいいものの、そのそばからクラスメイトがシブキに声をかける。それなりに可愛らしい外見の女子生徒である。
「龍魔くーん!」
「ん? おう」
「今日すごかったね! 足速いし、頭もいいし! もしかして天才⁉︎」
「買い被んなって、そんなんじゃねーさ」
普通の男なら女子にちやほやされて喜ぶかもしれないが、シブキは過度に称賛されるのを好かない。
むしろそういうのは、彼にとって苦手な類だ。相手が友人や家族などよく知った者ならともかく、知り合ってたった数時間、しかも自分の本質さえ知らぬ他人にもてはやされるのは、あまり気分のいいものではなかった。しかし邪険にすることも彼の性格上できない。
「シブキ。置いていくぞ」
助け舟を出したのは勇輝だった。勇輝はシブキの相棒を名乗るだけあって、彼をよく知る友人だ。勇輝自身も誉めそやされるのは得意ではないので、シブキの気持ちはよくわかるのだろう。
「あっ、黒神くん、御神楽くんも!」
「……悪いな、あんまり待たせると勇輝にどやされちまう。じゃあな!」
「んー、バイバーイ!」
ありがたく拘束を脱したシブキは、そそくさと勇輝たちの方へ歩いていく。
対する勇輝は何やら不服そうにシブキを睨む。
「全く……」
「わりーって、拗ねんなよ勇輝。少しすれば目立たなくなるだろ」




