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傷口に手を触れるとわかりやすく痛がるシブキに、青年は不機嫌そうに顔をしかめる。
「大したことない、って言ったのに?」
「まだ回復しきってないんだよ、そりゃ触られたら痛ぇって……」
「帰ったらクサキに診てもらうこと。いいね?」
「……わかった、わかったからヒョウ兄、頼むからホント傷ぐりぐりすんのやめて……」
「無茶ばかりする罰だよ。もう少し自分の身も大事にしなさい」
「う……ごめん」
青年に叱られてすっかり萎れた様子のシブキを見て苦笑しつつ、柚木が青年の肩を軽く叩く。
「まあまあヒョウ、そのくらいにしてあげなよ。今回は緊急事態だったし、何より二人はちゃんと彼女を守り抜いたんだ。怪我をさせてしまったのは、僕の采配が悪かったからだ」
「……そうだね。駆けつけてやれなかったのは本当にすまない」
「いいよ。俺たちだけでもなんとかなったし、それに兄さんたちなら絶対来てくれるってわかってた」
「全くかわいいことを……口説き上手な弟でお兄ちゃんは心配で心配で」
「はは、いいじゃないか。……勇輝くんは? 大丈夫かい?」
くるりと柚木が振り向いて勇輝の方を見ると、勇輝はさっと首元を右手で隠す。
「……俺は、特に」
「こら、相棒。傷隠すんじゃねーよ」
「あっおい、シブキ……」
シブキが勇輝に詰め寄って強引に手をどかすと、乾いた血がこびりついている傷口が、柚木と青年の目に入った。
「首――勇輝くん、」
「大丈夫です。これくらいの傷、すぐに治りますから」
「バっカ野郎、そういうことを言ってんじゃねーの。つーか本当に深くねーんだろうな? ちょっと見せろ」
「馬鹿はお前だ。お前の方が重傷なんだから自分の傷の心配をしろ。……支部長、ヒョウさん、申し訳ないんですがそこで伸びてる猪女、頼めますか」
言いながら勇輝が気絶した由紀を指差す。彼女の方へ、何やら興味ありげに青年が近づいていく。
「あ、もしかして、この子が噂になってる田村さん?」
「えっ噂になってんのコイツ……」
「細かいことは気にしない、気にしない。シブキ、彼女は私に任せなさい。お前にこれ以上無理をさせたくはないからね」
「……ありがとう、兄さん」
遠慮がちに礼を言うシブキに微笑んでから、青年が由紀の体を背に乗せようとした――ちょうどその時、由紀の目がぱちっと開いた。
「――はっ!」
「うわめんどくせータイミングで起きやがった」
「あれ……ここはどこ私は誰?」
「ここは高架下、お前は間違って都会に降りてきた猪だ。山へ帰れ」
「そうだった私には山のみんなが――ってちがいますけどぉ⁉︎ 立派な人ッ間ですけど⁉︎」
「安心しろ、お前は例え猪でも立派とは言わない」
「アンタ揚げ足取り以外に取り柄ないわけ⁉︎」
さすがは由紀、起きがけから元気なものである。対する勇輝は、げんなりした顔でため息をついた。
「失礼な。助けてやったのは俺とシブキだぞ。大体お前が――」
「勇輝」
「……む」
反論しようとした勇輝だったが、シブキに阻止されてむっとしながらも口を噤む。
「おい由紀、オメーどこまで覚えてんだ? 百々目鬼どもにかっ攫われたみてーだが……」
「えっそうだっけ。確か今日は…………佳純と李渦公園で待ち合わせーっていって家出て、……家、家……んーそれからなんだっけ」
「……ま、ハッキリ記憶してるより忘れちまった方がマシだろうよ。お前、また異獣に捕まってたんだよ」




