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「…………グ……」


 そうこうしているうちに、目目連が目を覚ました。ゆらりと起き上がり、恨みがましい幾つもの目でシブキたちを見上げる姿は、さながら幽霊のようだ。


「なんだァ、今のは…………ふざけたマネしやがって……」

「ふざけているのは貴様だろう。俺をたかが人間と見くびった上、シブキにこれだけの傷を負わせたんだ。……こいつは優しいが俺は、タダで還してやるほどお人好しじゃない」


 勇輝の双眸は明確な敵意を表している。相当鶏冠(とさか)にきているようで、今にも目目連を射殺さんばかりの剣幕だ。


「こンのクソガキどもが……‼︎ やれ!」


 憎しみのこもった罵声を合図に、姿を隠していた百々目鬼が二体現れ、シブキと勇輝に襲いかかる。


 しかし足掻きも空しく、うち一体はシブキに軽々と斬り捨てられ、シブキの背中を狙ったもう一体は勇輝の鎌の餌食となった。あっという間に形勢をひっくり返して見せた二人は、ゆっくりと最後の獲物に目を向ける。


「甘すぎんだよ。目目連」

「侮るにも程がある」

「クッソ……ナメやがって……!」

「ナメてんのは、」


 言いながら、シブキの瞳から慈悲が消える。


「テメェの方だろ」


 水龍の海色の波動が強く波打ち、やがてそれは水と化していく。


 激流がシブキを包み込む。大きく後ろに引かれた左脚と、剣を握る右手に力が入る。


「終わらせようぜ――"ストリームスプラッシュ"」


 技の名を口にしたとともに完成した波動の激流を纏い、水龍は力強く地を踏みつけ、目にも止まらぬ速さで駆け抜ける。


 瞬き一つの間に目目連の懐へ忍び込んだシブキの剣は、高圧の水をその刃に宿して異獣の首を斬り裂いた。


 忌々しげに歪められた目目連の顔を、水龍はどこか憂いを帯びた表情で見下ろしている。


「キ、サマァッ……!」

「……哀れだな。傷つけることしかできないのか、お前は」

「クソッ……クソクソクソ、ふざケンなァッ‼︎」


 怒声で気力を保った目目連は、崩れた体勢をどうにか立て直して後退する。理性を失いかけた獣の眼が燃え滾る。


「こノ恨み、この怒り、遠くナイミライ、かなラずカエす……!」

「今、決着つけてもいいんだぜ」

「チィッ……‼︎」


 シブキの挑発に乗れるほどの力は残っていないようで、異獣は悪態をついて逃げてしまった。


「……追わないのか」


 勇輝の問いに、シブキは首を縦に振る。


「眠りこけてる瓜坊のが先決だ。コイツを置き去りにするんじゃあ、俺たちがここに来た意味がねーだろ。それにこっちも疲弊してる。これ以上の戦闘は現実的じゃない」

「まあ、そうだな。あの様子なら、本格的に回復するまでそれなりに時間もかかるだろうし」

「ああ。だから今はいい。とりあえず、コイツを送り届けねーと」


 シブキが屈んで由紀を背負おうとした時、遠くの方から二つ、人影が走ってきた。


「シブキくん、勇輝くん! 無事かい?」

「支部長……」

「あーもー、おせーって、ヒョウ兄。もう終わっちまったよ」


 やってきたのは柚木ともう一人、ベストの上から薄い水色のマントを羽織った、白縹の瞳をした好青年だった。


 青年はシブキに近寄り、赤く染まった脇腹をまじまじと眺める。


「シブキ、怪我してるじゃないか」

「あーこれ? 別に大したことないから……いッて、ちょっ兄さん、触るなって!」

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