6/9
「なるほどな。話の腰を折って悪かった」
「いや、話といってもこれだけだ。新たなる敵"大獄"のこと、そして谷崎の処分について。俺たちが伝えねばならなかったのはこの二点のみだったんでな」
気にするな、と言いたげに笑ったあと、谷崎はストローを咥え直してアイスティーを啜る。彼の両隣に座る日向とグレンも、特に言いたいことはないらしい。
それを見たシブキは、ちらりと壁にかけられた時計を確認してから対面のグレンたちに向き直る。
「情報共有、助かったぜ。そろそろ夕方だし、飲んだら出るか」
「そうだな。……それと勇輝、明日の午後、ブレドラやらないか?」
「いいぞ。受けて立つ」
仕事の話が終わったかと思えば、グレンと勇輝はまたゲームの話で盛り上がり始める。一時とはいえど、全く平和なものだとシブキは眉を下げて笑い、窓の外に目をやった。
わずかにオレンジ色が滲んだ空は、まだ少し青い。
時刻は午後五時十二分。出入り口の扉につけられたベルの音とともに、五人の青年たちはカフェを出る。
結局あの後、勇輝とグレンのゲーム談義が少々長引き、シブキの想定では四時四十五分くらいには出るつもりだったのが、この時間まで押してしまったのだ。
急いで帰る理由はないし、勇輝もグレンもゲームの話ができる相手はそう多くないだろうからという気遣いから、止めるに止められなかったのである。
まあ、たまにはこんな日があってもいいだろう。何せ龍も龍使いも、普通の一日を送れることの方が少ないのだから。そんな思いを抱きつつ、グレンたちと別れたシブキは相棒と共に帰路につく。
「にしても……馬鹿な連中もいるものだな」
大通りを抜け、人のまだらな路地を通って駅へと向かっている道中。ふと、勇輝が口を開いた。
「異獣と組んだとして、何ができるわけでもないだろうに」
「それで強くなった気になっちまう奴は、意外といるもんさ。それこそ、谷崎みてーにな。自棄になって、或いは手段を選ぶ気がなくて、自分で手にした力じゃなくても強くなれりゃいいと、そう思っちまうんだ」
一万年の時のほとんどを異獣との戦いに費やしてきたシブキは、当然そうした龍や人を大勢目の当たりにしている。そうやって堕ちてしまう者は、野心に溺れた悪人だけでない。
どうしても強くなりたい、ならなければならない理由があって、道を踏み外してしまった者も少なからずいることを、シブキは知っている。
事実、シブキ自身も一歩間違えればそうなっていたかもしれない。それが愚かなことだとわかっていても、追い詰められれば何をしでかすかはわからない。
少なくとも強さへの執着に関しては理解できるシブキにとって、そうして禁忌に手を染める者を頭ごなしに否定することはできなかった。
「そういうものなのか」
「ま、わかんねーならわかんねー方がいいだろ。こういう思考回路は疲れちまう」
そんな応酬を交わしている彼らに、ゆっくりと近づいてくる影が二つあった。
気配に気づいたシブキが振り返ると、二人組の男が立っていた。ぱっと見は二十代前半くらいの、これといった特徴はない普通の男性たちだ。
そのうち一人が、「あの、」と話しかけてくる。
「すみません。龍魔飛沫さん、ですよね?」




