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「ああ。俺は谷崎以外見たことはないが、そんな派閥があるのは聞いている」
「ならそれについての説明はいらないな。……さて、そういった連中が寄り集まる組織がいくつか存在している。その中でも、最近協会が特別警戒しているものがある。大規模な龍獣犯罪組織―― "大獄"、と名乗っている奴らだ」
淡々と事実を並べるような調子で、日向は情報を伝える。彼の対面に座る勇輝は眉を顰めた。
「つまり……谷崎が、その一人だったと?」
「いや、組織員ではないらしい。ただ、奴に異獣との契約を持ちかけた者が、"大獄"の名を語ったそうだ」
「要は今回の黒幕だった、ってワケか。誰かしら手引きした奴はいると思ってたが……組織となるとめんどくせえな」
一般人が異獣の存在を認識し、挙句契約にまで漕ぎ着けるなど、そうそうあることではない。大抵の場合、その裏には誰かしら、知識を吹聴した者がいる。本件も例に漏れずそうだったようだ。
シブキの言葉に頷いたのは、グレンだった。湯気の沸き立つカップの中のホットティーは、残り半分ほどになっている。
「最近は谷崎のように、"大獄"に唆されて異獣契約の禁忌に手を染めた奴も少なくない。支部は、それだけじゃなく、異獣事件が増えつつある原因の一つに、"大獄"の存在があるんじゃないかと疑っているんだ」
「裏で糸を引いてるんじゃねーか、って?」
「確定情報じゃないが、な。だが、"大獄"が頭角を表し始めた時期と、上位種異獣が頻繁に出現するようになった時期は重なっている。おれ個人としても、全く関連性がないとは思えない」
「どちらにせよ、警戒しておくに越したこたぁねーな……」
シブキは思案するように目を落とし、赤茶色に輝くグラスを軽く揺らす。グラスの中の大きな氷が転がって、からんころん、と小気味のいい音を鳴らした。
「それと、谷崎の処分についても伝えておかねばな」
次に言葉を紡いだのは谷北だ。深緑色のストローから口を離し、翡翠の瞳をシブキと勇輝に向ける。
「谷崎斗真に関しては、情報部の波動分析により、再犯の意図はないと判断された。ただ、口封じに異獣から狙われる危険性も考慮して、しばらく支部の監視下に置くことにはなっている」
「波動分析?」
勇輝が首を傾げて尋ねると、シブキはグラスをテーブルに置き直して答える。
「あー……勇輝はこういう、対異獣以外の案件は初めてだもんな。平たく言っちまえば、龍式の読心術だよ。波動から深層心理を読み解いて、相手の思考を判断する、心理学みてえな技術だ。俺もちょっとだけ齧っちゃいるが、マスターすんのは結構むずくてなあ」
「波動分析の会得者は協会員でもごく稀だ。なんなら日本支部にいる其奴は滅多に表に出てこない故、黒神が知らんのも無理はない。人間や龍は異獣とは違い、生かして捕らえるのが大原則なのでな。そうして捕らえられた者への尋問を担当するのが、波動分析を会得している龍なのさ」
龍使養育学校においても特に説明されないことであるため、勇輝が知らなかったのも頷ける。支部員でなければ尋問を担当することもないし、普通なら支部員だけが知っていればいい知識だからだ。
シブキと谷北の説明で、勇輝は粗方理解したようだった。




