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「大丈夫だ。ちゃんと生きてるぜ。俺も、そこの馬鹿野郎もな」
少しふらつきながらもあくまで笑ってそう言うと、シブキは背中の龍翼を消失させる。その様子に、由紀と御神楽は驚いたように目を見張った。
「よかった、シブキくん無事だ……! っていうか飛べたんだ!」
「龍魔くん、さっきの翼は……?」
瞬きを繰り返しながらそう尋ねる御神楽に、シブキは苦笑を返す。彼は、シブキが龍であること――人間とは異なる存在であることを、まだ知らされていない。
「あー……まあ、話は後でな」
今はやるべきことが残っている。彼方に見える地平線に吸い込まれる赤い太陽と、すっかり紫色に染まり始めた暗い夕空を背に、シブキはへたり込む谷崎の腕を引いて立ち上がらせ、彼の目をまっすぐに見つめた。
「谷崎斗真。お前は、異獣との契約という禁忌を犯した。龍使協会日本支部まで来てもらうぞ。いいな」
やや低いトーンで、若干の圧を含んで発せられたその声に、谷崎はため息を漏らした。
「……はあ。飛び降りさえ通じないんじゃ、さすがに打つ手はないな」
抗う気力は、どうやら残っていないようだ。実際、シブキが掴んでいる谷崎の手首にはほとんど力も入っておらず、くたりと地を向いて脱力している。
今度こそ事態は収束した。しかし、支部に谷崎を連行するまでがシブキたちの仕事である。気が抜けそうになるのをどうにか堪えて、シブキはもう一度御神楽の方を向く。
「つーわけで……御神楽、まあ色々聞きてーことはあると思うが、悪いが今度にしてくれ。まだちょっと野暮用があるもんでなあ」
「いいよ、全然。びっくりはしたけど、それだけだから。……ああ、でも、いっこだけお願いがあるんだけど」
柔らかな声音にシブキが首を傾げると、御神楽は緩く笑みを浮かべた。
「シブキ、って呼んでもいい?」
何かと思えば。その問いかけに、シブキはに、と笑って返す。
「なんだ、そんなことか。……いいぜ。これからもよろしくな、光輝」
「うん。……じゃあまたね、シブキ、勇輝」
嬉しそうに弾む友人の声に、シブキだけでなく勇輝も頬を緩ませて頷きを返した。
それから光輝は、由紀の方に目をやる。
「田村さん、……いや、由紀ちゃん、でいいかな。もう暗いし、家まで送ってくよ」
「えっ、いいんですか、御神楽せんぱ……光輝先輩!」
「あはは、大丈夫だよ。呼び慣れないなら無理しなくてもいいんだよ?」
「いえっ、せっかくなので!」
由紀は由紀で、相変わらず慌ただしい様子である。シブキにじゃあね、と手を振ったかと思うと、光輝と共に下の階へと続く階段を降りていった。
その背中を見送って、まだ少し残る眩暈を煩わしく思いながら、シブキが息を吐く。
「……さて。俺らも行くか」
「そうだな。……ところでシブキ、さっきの技は」
開けっぱなしになっていた屋上の扉へと足を踏み出しながら、勇輝が問う。
「ああ……"綿津見"、だろ? あれ、一目連さんに教わったんだよ」
「いつの間に……」
「っへへ、いつだろうな?」
いたずらっぽく笑って、シブキは返す。大方勇輝が寝ている深夜にでもこっそり抜け出して、教えを乞いに行ったのだろう。予想はつくが、見事に驚かされた上、適当にはぐらかされた勇輝はどうにも不服そうに口を曲げる。
「まったく……すぐ隠すやつだな」
「いいだろー? 全部言っちまったらカッコつかねーし」
「俺の前でくらい、格好なんてつけなくても」
「バーカ。相棒の前だからこそ、だよ」
シブキが空いた左手で勇輝の背をとん、と叩くと、勇輝は不満げな顔で振り向いて、しかしすぐに絆されたように口の端を上げる。
階段を降りた先、廊下の窓から覗く空の色は、すっかり青と紫に染め上げられていた。
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青行燈を討ち、李渦高校の怪奇を全て解決させたシブキたちの活躍、いかがでしたか?
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