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「悪ィな、谷崎。これ以上相棒に出番取られちゃあ、龍としての面目が潰れちまうんでね」
悪戯っぽく笑って言った水龍に、勇輝が頷きを返す。
「シブキ、谷崎は俺が押さえておく。青行燈は頼むぞ」
「おう。任せとけ」
やりとりを終えると、この隙に逃れようとした谷崎の右腕を勇輝が引っ掴んだ。抵抗を試みる谷崎だったが、一見すると華奢な見た目に反して怪力である勇輝に簡単に抑え込まれる。無理やり背中側で両手首を掴まれ、地面に押し付ける形で強引に拘束された谷崎は、それでもまだ足掻くつもりらしい。ぎらり、と獰猛な眼で勇輝を睨み上げる。
「離せ、燃やされたくないなら――」
「燃やしても構わんが、お前も死ぬぞ」
勇輝は動じることもなく、右手に握ったままの短刀を谷崎の首筋に当てた。
「ハッ、龍使いが人間を殺していいとでも思っているのか?」
「よくはないだろうな。……だがな、俺は生憎、そんなに甘くないんだよ」
低い声で唸るように言い、勇輝は短刀を握る手に少し力を入れる。谷崎の首の皮にわずかに傷が入り、刃に小規模な赤が滲んだ。
「殺せるぞ。俺は」
その行為が必要であるならば、迷いも恐怖も抱かない。対象が異獣から人間に変わったところで、何が違うというわけでもない。無意味に殺す趣味はないが、それが相棒のためならば――。
「……危険思想だな」
勇輝の言葉が本気であることを察して、谷崎はそれだけこぼして抵抗を諦めた。ほとんど本能的な自衛意識が働いたのだ。それほどに、勇輝が一瞬だけ見せた殺気は純粋なものだった。
勇輝が谷崎を連れて下がったのを視界の端で確認し、シブキは剣を握る力を強めて青行燈の出方を伺う。後手に回ってしまった以上、無闇に攻め込むべきではない。
空中に留まったままの青行燈は、不意に右手を前に向けた。それを合図に、青く不気味に燃える鬼火が三つ、シブキの方へと発射される。
鬼火は標的に届く前に歪に変形し、般若の面のような形相に変わった。それらは不規則な動きをしながら、囲い込むようにシブキに迫る。シブキは一つを見切ってかわし、もう一つを剣で斬り裂いたものの、最後の一つには死角から回り込まれて反応が遅れた。身代わりになった"星纏"がひとつ展開され、砕け散る。
攻撃手段は谷崎と同じだ。しかし、谷崎のそれとは明らかに格が違う。
「わかっちゃいたが、一筋縄じゃあいかないみてえだな」
そう呟いたシブキは口角こそ吊り上げているものの、内心はあまり穏やかではない。油断すれば鬼火に――波動ごと焼き尽くす火炎に、喰われる。
青行燈は続けざまに鬼火を二つ射出し、それと同時に自身もこちらへ距離を詰めてきた。シブキが鬼火に対処している隙に、青行燈は袖の下に隠し持っていた長く鋭い爪を振りかざして斬りつける。一撃目は"星纏"が庇い、二撃目以降はシブキの剣による応戦が間に合った。
どうにか攻撃を弾き続けるシブキだったが、青行燈が猛攻を緩める気配はない。接近戦に持ち込めば有利、というほど簡単ではなさそうだ。
さて、どうしたものか。このまま押し切られるのは時間の問題だ。今のままでは不利になるだけだと判断したシブキは、青行燈の爪の連撃を一度大きく弾き返し、自身は素早く身を退いて再度距離をとる。




