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そんなシブキの隣で、由紀は「そういえば」と口を開いた。
「シブキくん、このきらきらしたやつ、結局なんなの? 黒神のハドウジュツのひとつ、ってことしかわかんないんだけど……」
勇輝は青行燈の瘴気に対抗する策と称して、屋上へ向かう前に自分を含めた四人にこの術をかけた。しかし詳細な説明は面倒だからと怠って、結局シブキにしか話していなかったのだ。
「"星纏"。波動や瘴気を感知する"月輪"の光を、超小規模の"結界陣"に閉じ込めた合わせ技だよ。このちっこいのをいくつか対象に纏わせて、瘴気の影響を軽減してんだ」
瘴気による感覚異常に対し、"月輪"の光が有効なのは『異次元の階段』の調査で確認済みだ。しかし、常に"月輪"を発動し続けるのは勇輝の体力、集中力ともに無理がある。そこで、波動ごと空間を断絶する"結界陣"をごく小さい多面体のかたちで展開し、波動でできている"月輪"の光を滞留させた。それがこの"星纏"、プリズムの正体である。
「ちなみに、それがないとどうなるの?」
「そうだなあ……俺ら全員、右も左もわかんなくなって、気づいたら飛び降りでもしてたかもしんねーな」
「やっば……」
谷崎たちが屋上に誘い出したのは、そういう意図もあったのだろう。咄嗟に勇輝がこの策を閃いていなければ、こちら側がかなり不利だったのは明白だ。
「……ま、いきなり思いついたってわけじゃあなさそうだけどな」
十数分前に勇輝から聞いた"星纏"の全貌を思い出し、シブキは目を細める。
"星纏"は瘴気を打ち消すだけでなく、衝撃を受けると"月輪"の光が外殻の"結界陣"にエネルギーとして吸収され、瞬間的に"結界陣"が大きな盾として展開し、纏う者の身代わりになるのだという。言いながら彼は試験的に作った"星纏"の欠片を軽く弾いてみせたが、確かに説明の通りに働いた。
かなり汎用性に優れたその技は、いきなり思いついたとは考え難い。シブキがそれを問えば、勇輝はこう返したのだ。
『俺の"結界陣"じゃ、俺より前線に立って戦うお前までは守れない。だから、その代わりになるものがないかと思って、ずっと考えていた。これはその答えだ』
彼らしい、迷いのないまっすぐな眼差しが印象的だった。今まで以上に強い意志を宿した、アメジストの双眸が。
「本当、あいつも強くなったもんだ」
かくして、シブキたちが見届けた二人の青年の戦いは幕を閉じた。
――だが当然、まだ何も終わってはいない。
それまでただ傍観するだけだった青行燈が、契約者の危機を察してか、ようやく動きを見せた。青行燈は、谷崎が操るそれよりも激しく燃える鬼火をひとつ、勇輝の方に飛ばしてくる。パリン、と硝子の割れるような音を立て、勇輝の纏っていた"星纏"が一つ砕け散った。
「ちっ……」
舌を打つ勇輝と反対に、谷崎の表情にはいくらか余裕が戻る。
「ハハ、まだ終わりだと思うなよ! 青行燈、やれ!」
谷崎の指示に応じたようで、青行燈は青白い鬼火を三つ撃ち出した。
しかし火球は勇輝には届かず、それより先に割り込んだシブキの剣によって引き裂かれ、霧散する。




