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「ったく、強くなっちまって」
満足そうに笑みを浮かべて、きっと戦闘中の二人には届かないであろう声量でシブキは言う。今までであれば、決闘など危険だと止めていたかもしれない。けれど今の勇輝にはもう、過度な心配は必要ないだろう。
焦りを募らせているのは谷崎だけだ。セオリーに囚われすぎたのか、或いはあまりにも浅はかだったのか。フェイクは何度も使えない。真っ向から戦闘を挑めば勝ち目はない。谷崎は足下に火の玉を発生させ、それに足を乗せるような形で浮遊し、その状態から次の攻撃に転じようとする。
勇輝の戦闘傾向は、青行燈の配下の異獣に探らせてある。長射程の攻撃は"射光線"のみ。であれば、空を浮遊・飛行している対象には当てにくくなるだろうし、そこまで手数も増やせない。
今まで通りの戦い方であれば。
勇輝がここで頼ったのは、波動術ではなく――首から下げたペンダント、相棒の龍結晶だった。
「龍術――"送り梅雨"」
タンザナイトに似たそれに勇輝の指が触れると、結晶は青く激しい輝きを放つ。発動者である勇輝の周りの空気が波打つように揺れ、何もない空間から無数の水滴が雨の如く撃ち出される。
異常なまでの速度に乗せて放たれた水の弾丸は、空を滑るように逃げる谷崎を直線的に追尾する。ある程度狙って発射する"射光線"に対し、"送り梅雨"の強みはその手数だ。ほとんどの攻撃は避けられたが、わずかな弾数でも谷崎の足下の火炎を貫ければいい。
谷崎とて、青行燈から借り受けた力を使いこなせているわけではなかった。ただでさえ浮遊動作は不慣れだというのに、そこに予想外の弾幕が迫ってくるのだ。かわしきれるはずもなく、谷崎を支えていた鬼火は無惨にも掻き消された。リカバリーを目論みもう一度炎を出現させようとするも、絶え間ない雨の猛攻によって阻まれてしまう。
足場を失くした谷崎に、ついぞ策は残っていない。足掻く術もなく、彼はコンクリートに落下して尻を打ちつけた。大した高度ではなかったから、打撲程度で済むだろう。
決着はついた。未だ起き上がろうとする谷崎に勇輝が近づき、静かに短刀の切っ先を向ける。
「勝負あったな、谷崎斗真。お前の負けだ」
淡々と、そう告げる。ひどく冷めた紫の眼光が谷崎を見下ろす。
「貴様……。青行燈の瘴気を食らっていながら、まともに動けるはずが……!」
悔しげに顔を歪ませて谷崎は言う。最初から、これは谷崎の方にアドバンテージがある戦い、のはずだった。
谷崎の負け惜しみともとれる言葉に、勇輝の口の端が意地悪く上がる。
「ああ、見えていなかったか? これが」
勇輝の言葉に谷崎が目を凝らすと、彼の周りに何か、きらりと光るものが見えた。よく見ればシブキや由紀、御神楽の周りにもそれはある。小さなガラス片のような、プリズムに似た粒子が、彼らの周囲に浮遊している。
「それは……」
「お前があんな化け物と契約してくれたおかげで思いついた、新技だ。礼を言おう」
全く心にもない言い方で、勇輝は元の無表情に戻ってそう語った。後方でやりとりを聞いていたシブキは、相変わらず徹底的に毒を吐く相棒に苦笑を浮かべている。




