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「貴様こそ、頼りきっている相棒がいなくて戦えるのか? この()()と!」

「そっくりそのままお返ししようか。ただの一般人が、禁忌を犯したくらいで粋がるなよ。無能なりに自分の力で足掻いているそこの猪女の方が、まだマシだ」


 勇輝は振り向かず、右の親指で由紀を指して言う。


「……エッ、私⁉︎」

「よかったな由紀。褒められてんぞ」

「無能とか猪女って言われたけど!」

「勇輝にしちゃ褒めてる方だろ。まあ、それなりに買われてるってことなんじゃねーの」


 そんな後方の会話も、谷崎の眼中にはない。何を言っても動じない、それどころか煽り返してくる勇輝に、谷崎の方が怒りを募らせているようだ。


「いつまでお粗末な悪態をついていられるか、見せてもらおうか!」


 谷崎はそう言うと、青い火の玉を三つ同時に勇輝に向けて放った。先ほどより迫ってくる速度が増している。


 対する勇輝は"波器生成"で顕現させた大鎌を手に持ち、勢いよく振るって飛んできた炎を掻き消す。


「余裕を崩しているのは、どっちだろうな」

「クソが……!」


 憎々しげに奥歯を噛み締め、谷崎は次の攻撃に入った。火の玉を二つ出現させ、今度は少し遅めの速度で撃ち出す。


「顕現しろ、絡新婦(じょろうぐも)!」


 谷崎の一声に、二つの火の玉は一つに合わさり、瞬く間にそのかたちを変えた。下半身は蜘蛛の身体、上半身は死人のような顔色の長髪の女の身体を持つ怪物だ。


 怪物――絡新婦は、八本の脚を蠢かせて勇輝と距離を詰めてくる。その形相に普通の人間なら怯んでしまいそうなものだが、勇輝は一切動じることなく、もう一度大きく鎌を振るって迎え撃つ。


 それは存外あっさりと倒されてしまった。見掛け倒しではあるが、かわすこともなく攻撃を喰らって撃沈するというのは、いかんせん不甲斐ない。


 何か、おかしい。確かに消滅していった異獣に違和感を覚える勇輝を、谷崎はにやりと笑って睨みつけていた。


「デカい武器は、後隙が多い」


 間髪入れずに、谷崎は新たに二つの火の玉を勇輝に向かわせる。今までよりずっと速い速度で、大鎌を振りきったばかりの勇輝目掛けて、それは迫っていく。


 後方で様子を見守っていた由紀が、その様子に固唾を呑んだ。


「あれ、やばいんじゃ……」

「平気だよ」


 由紀に返したのはシブキだ。青い瞳は慌てる様子もなく、ただ静かに戦いの行く末を見守っている。


 攻撃後の隙の大きさは、重量武器を使う者全てにとって課題となる。勇輝もその例に漏れない。波動でできているとはいえ、敵を叩き斬る質量を持った彼の大鎌は、連続攻撃や追撃には対応できない。


 しかし。


「弱点をほっとくほど、あいつはバカじゃねえ」


 確信を込めて呟かれたシブキの言葉は真実だった。今、前線に立っている勇輝にはすでに、反撃の準備ができている。


 勇輝は地面に刃先が落ちた大鎌を右手で支えたまま、左手に波動を集中させる。淡い紫色の光がそこに集まって、一秒と経たずにそれは短刀のかたちへと変化した。


 飛んできた二つの火の玉は、左手で放たれた短刀による一閃により、勇輝に届く前に掻き消えた。


 重量武器である勇輝の大鎌に対して、軽量武器でリーチも短い短刀は相当勝手が違う。動作の癖からして、錦との手合わせで見て盗んだのだろう。とはいえこの短期間で技術を己のものにし、実戦で咄嗟に扱うのは並大抵のことではない。

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