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「能ある鷹は爪を隠す、とも言うんだがな。ああ悪い、そんな能はないんだったか」
「思っていたよりもよく口が回るじゃないか、黒神くん。まあいい。馬鹿に伝わる言葉を使ってやるほど、僕も優しくないんでね」
声色こそ穏やかだが、勇輝と谷崎の険悪さは誤魔化しきれない。中身のない笑顔のまま、谷崎は淡々と話す。
「黒神勇輝、僕はね、君が気に食わないんだよ。僕が完璧であることを邪魔する君が」
校内での谷崎斗真の評判はいいものだった。成績優秀、カリスマ性もあって教師にも生徒にも概ね好かれている。青行燈の瘴気が手伝ってか、或いは彼自身の才なのか、ある種の洗脳じみた人気が彼にはあった。その支配下に唯一置けなかった人間が勇輝なのだろう。
完璧と呼ばれた生徒会委員は、どうやら相当な完璧主義者であるようだ。
ふと、谷崎の顔つきが変わった。正確に言うならば――笑顔の仮面が、剥がれた。
彼が左の手のひらを空に向けて開くと、その手に青行燈が従えているものによく似た青色の火の玉が現れた。それを見てシブキが顔を顰める。
「ただ異獣に協力していただけじゃなく、契約までしてやがったか。禁忌を犯したな、谷崎」
龍と契約を交わすように、異獣と契約を交わし、その力を得ようとする者は確かにいる。しかしそれは世界に敵対するということと同義であり――禁忌そのものだ。
谷崎は悪びれる様子もなく、口角を上げる。
「絶対であるためならなんでもするさ。強者ってのは、そういうもんだろ?」
「どうかね。その執着は異様だと思うぜ。そんなとんでもねえモンと契約しちまうほど、テメェの言う完璧ってヤツは大事なのかい」
シブキの視線は青行燈に向けられる。何を言うでもなく、青行燈はただそこに佇んでいる。
「ハハハ、どうだい最高の相棒だろう! 人の恐怖を糧に力を得る青行燈――こいつの力を最大限まで引き上げ、好きに暴れさせてやる代わりに僕に力の一部を貸せと! そう契約したのさ!」
「聞いてもいねーのに全部喋ってくれて助かるぜ。……で、青行燈の配下の異獣を使って『怪異』を引き起こして、生徒の恐怖の波動で青行燈の強化を目論んだ、ってとこか?」
「ご名答だ、龍魔くん。君も聡くて鬱陶しいね、次に殺すのは君にしてやるよ」
少しずつ。谷崎の声のトーンは狂気に侵蝕されつつある。それが本人が元から孕んでいたものなのか、はたまた青行燈と契約した影響なのかは定かでないが、少なくとも彼の今の心境が到底穏やかでないのは容易に想像できた。
「黒神。最初はお前だ」
「……ほう。殺されるほどのことをしでかした覚えはないが」
「言っただろう、気に食わないんだよ。君の才能、態度、強さ、その全てが僕にとって目障りだ」
「もっと素直に言ったらどうだ? 俺が怖い、と」
高圧的に言う谷崎に勇輝は屈しないどころか、堂々と前に出て睨みつけ煽る始末だ。そういうところだろうな、と呆れ顔でシブキはため息をつく。
いよいよ我慢ならなくなったようで、谷崎は勇輝目掛けて手にしていた火の玉を投げつけた。勇輝はそれを難なくかわしてみせる。
「やっぱり生かしちゃおけないな! 黒神勇輝! 一対一だ、貴様に決闘を申し込む!」
「決闘? 大きく出たものだな。構わんが、骨の一本や二本折れても泣くなよ」




