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 最後の怪異――『蝋燭さん』の噂は、以下のようなものだ。李渦高校で次々と起こる怪異を面白がった三年四組の生徒が三人ほど集まって、自分たちの教室で『こっくりさん』を行った。有名で手軽な降霊術だ。すると、蝋燭のような青い人魂を二つ従えた、死装束の女が現れたのだという。その女の霊というのが、恐らく青行燈だ。


 シブキは前に出て、三年四組の教室の扉に手をかける。


「じゃ、開けるぞ。準備はいいか」


 振り向いてそう尋ねれば、各々頷いて肯定を返す。


「俺はいつでも構わない」

「うん。僕も大丈夫」

「おっけー……! たぶん!」


……約一名声が震えている少女がいるが、まあ平気だろう。


「いくぜ」


 ガラッ、と重たい音とともに、扉が開いた。それと同時に、怨念のような強い瘴気が室内から溢れ出る。


 そこに立っていたのは、噂通りの死装束の女だった。薄気味悪い青色の火の玉が二つ、彼女を守るように浮かんでいる。長く乱れた黒髪が、扉が開いて吹き込んだ風に流されて揺れる。


 背を向けて佇んでいた女は、シブキたちの気配に気づいて、ゆっくりと振り向いた。どこか機械的で不気味な動きだ。女の額には二本、短めのツノが生えており、顔面は墨にも似た漆黒で塗り潰されて表情が見えない。


 特徴的なその姿は、シブキが記憶していた異獣の資料と一致した。


「間違いねえ。上位種異獣、青行燈だ」


 敵の特性上、接近戦を得意とするシブキでも迂闊に近寄ることはできない。剣を握る力を強めつつ様子を伺っていると、青行燈はシブキたちから目を逸らし、ふ、と姿を消してしまった。


「きっ……きえ、消えたけど!」

「落ち着けバカ! 瘴気辿れば追えるから問題ねえ、行くぞ!」


 慌てふためく由紀を一喝し、シブキは青行燈の瘴気が漂う場所――屋上を目指して駆け出す。三人もその後に続く。


 廊下を抜け、階段を駆け上り、扉の鍵を開錠して屋上へ。午前中の雨で充満したアスファルトと土の香りがまだわずかに残っていて、ツンと鼻をつく。


 暮れた空の下、その鮮明な紅の世界に、黒い人影が二つあった。ひとつは先ほどの青行燈。もうひとつは――李渦高校の制服に身を包んだ、青年の姿。


「やっぱテメェが黒幕か。――谷崎斗真」

「ッハハ、勘がいいもんだ」


 名を呼ばれた谷崎の様相は普段とは異なっていた。いかにも好青年、優等生といったいつもの笑顔は鳴りを潜め、今その顔に貼り付けられている笑みはどこか歪で気味が悪い。


 最初から勘づいていたシブキや勇輝とは対照的に、知る由もなかったであろう由紀と御神楽は驚愕の表情だ。


「谷崎くん……⁉︎」

「えっ……え、生徒会の人⁉︎ なんで⁉︎」

「あれだけ露骨に瘴気を巻きつけておいて、よくとぼける気になれたな」


 嫌悪感を隠そうともせず、勇輝はとげとげしい声で言う。


 谷崎は青行燈と繋がっていた。青行燈の瘴気による感覚操作であれば、自身の瘴気を一切悟らせないようにもできたはずだ。だが、異獣の位こそ測り間違えていたとはいえ、谷崎は勇輝が明確に感じ取れるほどの瘴気を纏っていたのだ。それは勇輝が言うように、露骨とも捉えられるものだった。


 勇輝の指摘に、谷崎は本心の読めない薄笑いを返す。


「せっかく(瘴気)を手にしたんだ。隠してしまうのは宝の持ち腐れだろう?」

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