第十六話「綿津見」1/10
第十六話「綿津見」
李渦高校で噂される四つの『怪異』。その噂を聞きつけたシブキと勇輝は、噂を知っている御神楽と、ついでに着いてきた由紀を連れて調査に乗り出した。
一つ目の怪異『生物室のポルターガイスト』は、下位種異獣・目隠し鬼の仕業。二つ目の『無人のピアニスト』は、目隠し鬼と中位種異獣・ミューによるもの。三つ目『異次元の階段』は、異獣の瘴気による感覚異常が原因だった。
そして。シブキと勇輝は今、最後の怪異――『蝋燭さん』が出没するという、三年四組の教室を前にしている。
階段の怪異から、シブキはこの『蝋燭さん』の正体に目星をつけていた。
「人型の上位種異獣、青行燈。百物語の最後に出てくる鬼女の怪……恐らく、そいつが『蝋燭さん』の正体だ」
強烈な瘴気が漏れ出す三年四組の教室を睨みながら、シブキは続ける。
「青行燈の瘴気は、浴びた奴の感覚を狂わせる効果があるんだ。階段でおかしくなったのも、そのせいだとなれば説明がつく。今は平気だが、距離が近くなればまともに戦えるかも怪しいな……」
「それほどなのか?」
「ああ。けど、まだ青行燈の力は不安定だ。今しか叩けねえ。ほっとけば、それこそ手のつけようがなくなっちまう」
そう語るシブキの目線の動きは、迷っているようにも見える。敵の脅威は大きい。たった一組の龍と龍使いではなかなかに骨が折れる相手だ。本当なら応援を待つべきだが、そうしているだけの余裕もない。難しい判断を迫られているのだ。
それを聞いた勇輝は少し思案をした後、「それなら」と声を上げた。
「作戦がある」
何かを思いついたであろう相棒の言葉に、シブキは瞬きを返す。
「作戦?」
「上手くいく保証はできない。お前が、俺に賭けてくれるなら」
台詞とは裏腹に、勇輝の声色は後ろ向きではなかった。彼は自信があって発言したのだ。その自信というのは、単に作戦の可否に対するものだけではない。相棒が是を返してくれるであろうと、そういう確信も含んでいる。
信頼されているものだ。シブキは内心でそう思いながら、悪戯っぽくニッと笑った。
「当然! お前と契約したその日から、俺の命はお前に預けてるさ」
「なら問題はない。必ず成功させる」
相棒につられて笑みを返しながら、勇輝はそう言った。
今までの、守る者と守られる者という関係はもう終わった。互いに寄せていた信頼関係は、ここ最近の出来事を通して、より強固なものとなっていたのだ。今の二人にとって、相棒からの信頼というのは何より絶対的な動力源なのである。
しかし、ならばいざ出陣というわけにもいかない。今回はもう一つ、考慮しなければならない事項がある。勇輝はズボンのポケットに入った携帯を取り出す。
「とりあえず、三階の光輝に電話する。どうする、危険なら帰らせるか?」
「そうしてえが、青行燈が相手となるとなあ……。もう目をつけられてるかもしれねーし、俺らのそばにいさせた方がむしろ安全かもな」
「わかった。東階段から上がってくるように伝えておく」
「サンキュー。……さて、と」
端末を耳に当てる勇輝を尻目に、シブキは波動で作った両刃の剣を右手に握る。
海色の瞳が、わずかに細められた。
程なくして、由紀と御神楽は瘴気の影響がほとんどない東階段から四階に上がってきた。全員が揃った後に勇輝の秘策も施され、開戦の支度が整う。




