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「由紀。お前は支部の連絡先、知ってんだろ? もしも、だ。もし万が一、俺たちが帰ってこなかったら、すぐに学校から出て支部に連絡しろ。お前も一緒に巻き込まれてちゃ、助けを呼ぶことだってできねえだろ」
こういうときには、由紀にぬるい言い方は通用しないとわかっている。有無を言わさぬよう少し強めの口調で言えば、由紀は渋りこそしたが引き下がり、こくりと頷いた。
「大丈夫だ。ちゃんと戻ってくるさ。……勇輝、行くぞ」
「ああ。光輝、また後でな。何かあったらちゃんと逃げろよ」
「うん。勇輝も気をつけて」
御神楽と由紀の二人をその場に残して、シブキと勇輝は西階段へと向かう。
階段の付近には、強烈な瘴気が漂っていた。発生源は恐らく四階だ。これは予想以上に厄介な相手なのかもしれないと、シブキは直感的に感じて顔を顰める。
「瘴気のせいで歪んだのかもな、こりゃ」
「瘴気だけで、術もなしに? あり得るのか、そんなこと」
「相当強い異獣なら、百パーないとも言いきれねえ。……けど、そこまでの感じじゃあなさそうだが」
とにかく、実際に現象を確認しないことには始まらない。それが敵の罠だとすれば突破するまでだ。警戒を強めつつ、シブキと勇輝は階段に足をかけた。
見た目が変わっている、ということはない。この充満する嫌な気配を除けば、一見普通の階段だ。
踊り場に着くと、一層瘴気は濃く、重くなる。しかし"狂化"した異獣のそれに比べれば薄いものだ。少なくとも、気分が悪くなるほどではない。そのまま二人は上の階へ。
そうだ、確かに三階から四階へ、登っていったはずだった。しかし、壁に設置された階数表示のプレートが示す数字は――三のままだ。
「なるほど。……確かに、ループしてんな」
シブキは警戒を絶やさぬまま、その場で足を止め、思考を回し始める。さてこれはどういう現象か。ひとつ、可能性があるとすれば。
「勇輝、"月輪"だ。もしかすっと、空間が歪んでるんじゃないかもしれねえぜ」
「了解した。やるだけやってみる」
勇輝は目を瞑り、意識を集中させる。
「波動術――"月輪"!」
言の葉とともに、勇輝を中心に淡く暖かな光の輪が放たれていく。波動を露わにする技。それはつまり、事の本質を暴く技でもある。
広がっていった光輪は、瞬く間に真実を映し出した。階数表示のプレートは三から四に、屋上階へ続いていたはずの登り階段は三階への下り階段に変わったのだ。
「……シブキ、どうなってるんだ?」
「空間が歪んでたんじゃねえ。瘴気で狂わされてたのは、俺らの感覚ってワケさ。方向感覚がイカれて、ついでに幻覚まで見せられてたんだ。お前の"月輪"で正しい地形を認識したから、俺らの感覚も治った」
英数字で四と書かれた階数表示のプレートに手を当てながら、シブキは言う。勇輝もその説に納得したようだ。
「感覚操作系の異獣なら、それはそれで強敵だな」
「ああ。面倒なのは間違いねーだろうな。……まあでも、これでハッキリしたぜ」
シブキの視線は、三年四組の教室へと移動する。そこは、四つ目の噂が流れている場所であり――溢れてくる瘴気の、発生源でもある。
「最後の怪異――『蝋燭さん』とやらの正体が、な」
夏の湿気た風が、シブキの黒い横髪を揺らした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
最後の怪異、「蝋燭さん」の正体は一体なんなのでしょうか。
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次回は派手な戦闘もありますので、お楽しみに!




