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レンズの奥、薄い小豆色の滲む黒い瞳は、芯のある光を宿していた。義理堅い男だ。それ以上の言及は意味を成さないし必要でもないと判断して、勇輝は静かに前を向き直した。視線の先で、相棒が戦いの火蓋を落とす。
シブキがミューに向かって走り出す。対するミューは大きく息を吸い込んだ後、裂けんばかりに大口を開け、この世のものとは思えないような金切り声を発した。
聴けば気でも狂ってしまいそうな騒音だ。けれど、シブキの耳はイヤーマフが、後方では勇輝が即座に展開した"結界陣"が、異様な音を遮断する。勇輝の"結界陣"は普段は音を通すが、今回は遮音に特化するよう調整が施されている。
「ったく、うるせえぞ」
低い声で吐き捨てるように言い、シブキはその剣を振るう。狙いは一点、異獣ミューの、人間に似た細い首。
「わりィな。ヒステリックなヤツは嫌いなんだ」
繰り出された一閃は、ミューの首を撥ね飛ばす。凹凸のない断面を晒して音楽室に舞った異形の頭蓋は、切り離された本体と共に消滅してしまった。
「……っし。終わったぞ!」
イヤーマフを外し、シブキは振り返って手を上に伸ばした。合図だ。
勇輝は返事代わりに"結界陣"を解除する。それと同時に、シブキの手にあったイヤーマフも消えていく。
あまりにも呆気なく終わったもので、御神楽は驚きを隠せない様子だ。
「一瞬……。中位種ってことは、さっきの丸いのより強いんだよね?」
「ミューの場合、戦闘力はそこまで高くない。他に戦える異獣がいれば厄介だが、一対一でかつ対策ができているとなればこちらが俄然有利だ。下位種とさして変わらない」
勇輝の説明を聞いて、御神楽は改めてシブキの方に目をやる。先ほどまでの凛とした戦士は、今は自分たちとなんら変わりのない学生だ。どうにも不思議な気分である。
「そうなんだ。色々いるんだね、異獣ってのも」
こうして怪異『無人のピアニスト』は解決された。
残る怪異は、あと二つ。
三番目の怪異、『異次元の階段』を調査すべく、ひとまず三階まで戻ってきたシブキたち四人。さくさくと進めてはきたもののやはり時間は経っており、窓の外にはすっかり夕暮れのオレンジ色が広がっている。
先頭を歩くシブキが、廊下の途中で立ち止まった。
「さて。もう一回確認してもいいか? 階段の噂」
「うん。『異次元の階段』は、三階と四階の間の西階段だよ。誰もいないときにそこを歩くと、ずっと同じところをループしちゃうって話だ。三階から登ったのに、着いた先も三階、ってね。逆も同じ。異次元に迷い込んでしまうせいだ、って言われてる」
「なるほどな。……やっぱ、厄介そうだなあ」
西階段のある廊下の奥を睨みながら、シブキは眉を寄せる。
「多分、空間が歪んでるってことだろうが、そんなことができんのは上位種異獣ばっかだ。かといって、階段を登った時点で歪みに入っちまうとしたら危険極まりねーし、ほっとくわけにもいかねえ」
空間操作を得意とする異獣といえば、それこそ目目連や影踏み鬼のような、手こずる相手ばかりだ。少し目を落として考えてから、シブキは顔を上げた。
「由紀、御神楽。お前らはここに残ってろ」
「でも!」




