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透明化は、"月輪"であれば打ち消せる。勇輝のおかげで、御神楽と由紀の視界にもそれは映った。
一体は先ほどとは別個体の目隠し鬼だ。椅子の下で一匹、ノクターンのテンポに合わせてぴょんぴょんと跳ねている。ちゃんとした顔さえあればもう少し愛らしく見えただろう。
もう一人は、長い金髪を垂らした美しい女性だ。古代ギリシアのそれに似た白い服に身を包み、女性はただ一心に、服に負けぬほど白く細い指で鍵盤を弾いていた。
「きっ……金髪美女!」
「意外と綺麗……だね」
「美女、ねえ。……ま、よく見てみろ」
警戒するように目を細め、シブキは言う。
女性はようやくこちらに気がついたようで、ゆっくりと顔を上げた。鳴り続けていたノクターンがついに止む。
鮮やかなブロンドの髪の下、露わになったその顔は――目鼻がなく、唇だけがあった。横髪から覗く耳の先は尖っており、それが人間とは異なる種族であることを際立たせている。
「ほら。ちゃんとバケモンだ」
「うおぉ……」
「顔⁉︎ 顔ないけど! 顔!」
「中位種異獣……ミューか」
勇輝は御神楽と由紀を庇うように一歩前に出る。そのさらに前方で、シブキが殴りかかってきた目隠し鬼に回し蹴りを喰らわし、難なく撃破した。
それを見て――といってもこの異獣に目はないので、正確には感知して――ミューはようやっと椅子から立ち上がる。長い服の裾がひらりと揺れた。
「えっ、何⁉︎ 何してくんの⁉︎」
「音による精神攻撃がメインの異獣だ。光輝、猪、耳は塞いでおけよ」
「だから猪じゃないってば!」
「うるさい、少し黙っていろ。……波動術――"波器生成"!」
由紀の抗議は真っ向から切り捨てて、勇輝は両手を広げ、自身の肩幅くらいに開いて手のひらを向き合わせる。空気を抑えるような姿勢だ。
その技は、勇輝がいつも波動の大鎌を生成するときに使う技だ。波動を特定の形に実体化させる技。波動術の基本形でもある。
この場で勇輝が造ったのは得物ではない。高遮音のイヤーマフだ。ミューの音波攻撃を防ぐためのものである。
勇輝はそれを、前線の相棒に投げ渡した。
「シブキ、使え! こっちは"結界陣"で耐える!」
「サンキュー、勇輝!」
勇輝から渡されたイヤーマフを装着し、シブキは右手に己の波動から生成した剣を握る。耳栓もシブキ自身が用意することは不可能ではないが、作り慣れていないものはいかんせん生成に時間がかかってしまう。生成に注意を裂いて異獣に不意を突かれるわけにもいかないため、この後方支援はありがたい。
シブキが剣を持ち出したのを見て、勇輝は御神楽と由紀に振り向いた。
「ここからは少し荒事だ。人型異獣の首が飛ぶのを見たくなかったら、目を瞑るなり逸らすなりしておけ」
「すごく物騒だね⁉︎」
「そういうものだ」
異獣といえどミューは人型、しかも百々目鬼よりも人間らしい姿をしているのだ。その首が斬られるとくれば、絵面はなかなかショッキングになる。
由紀の方は大人しくすっと視線を外したが、意外なことに、御神楽はそうはしなかった。
「……いや。ちゃんと見届けるよ」
「平気か? 吐いても知らんぞ」
「大丈夫。守ってもらってるんだ、せめてちゃんと見ておきたい」




