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「とりあえず、次は一階の音楽室に行くつもりだ。道中でざっくり話すさ。お前も連れ回してる以上、もう無関係とは言えねえからな」
かくして李渦高校の四つの怪異のひとつ、『生物室のポルターガイスト』は解決され――御神楽光輝は、龍と龍使いの世界の一端を、垣間見ることになったのである。
生物室の調査及び後片付けを終えたシブキたち四人は、音楽室のある階―― 一階廊下まで移動してきた。
そこまでの道のりをゆっくりと歩きながら、シブキと勇輝は、何も知らない御神楽に色々と話して教えた。異獣に関するざっくりとした説明、シブキと勇輝が異獣を倒す仕事をしていること、由紀がシブキたちの「仕事」の中身を知るに至った経緯までを。
シブキが龍であるということはあえて伏せた。わざわざややこしくする必要はないと判断したのだ。由紀のように、あっさりと納得してしまうような者はごく稀だろう。
閑話休題。音楽室の怪異は、『無人のピアニスト』というものである。噂はこうだ。日が傾いた頃の音楽室には、ピアノを弾く音が聴こえる。しかしその中を見ても誰もいない。そこには昔に死んだピアニストの魂が残されており、今もまだピアノを弾き続けているのだ……と。
そして、今。音楽室へ続く一階廊下には、事実として、ピアノの音が鳴り響いているのである。それは四人の耳に確と届いた。
勇輝にとって、懐かしい旋律だった。いつかどこかで、この音の並びを何度も聴いたような気がする。明確な記憶はもう、故郷と共に焼かれてしまったけれど。
「これは……」
「夜想曲第二番。ショパンのノクターンだ」
題を答えたのは、意外にも光輝だった。こいつはクラシックなんて聴いていたのかと、友である勇輝でさえ目を丸くする。
「あー、それか。御神楽お前、よくそんな細けえ題まで覚えてんな」
「小さい頃、少しだけピアノやっててね。僕は下手くそだったけど家族がよく弾いてて、それを聴くのが好きだったからさ」
柔らかく、どこか寂しそうな声色で、光輝は言う。今の彼の表情を表すなら、郷愁という言葉がよく似合う。
奇しくも怪異の弾くノクターンは、二人の青年にとって大切な一曲だったらしい。その伴奏をこれから止めてしまうのは少し忍びないが、そうも言ってはいられない。
シブキは音楽室の扉に手をかけ、鍵がかかっているかを確認する。消灯済みの音楽室は、しっかり施錠されているようだった。
「これで鍵でも開いててくれりゃ、ただのピアニストで済んだんだがなあ」
「ひぇっ……」
「ビビんのはこっからだぜ、由紀。さ、開けるぞ」
怖いものも危ないものも苦手だというのに、この少女は何故にわざわざ同行してきたのだろうか。十中八九シブキがいるからであろうが、全く変わった女だとシブキ本人は呆れ返っている。
解錠、それから戸を開ける。入口付近の電気のスイッチをオンにしたが、やはり人影はなく、無人のピアノは未だノクターンを奏でている。
一般人の目からはそう見える、という話だが。
「はー……せっかくだ、勇輝。二人にも見えるようにしてやれ」
「わかった」
シブキの指示に、勇輝は波動術・"月輪"を発動させる。しかし今回は影踏み鬼のときとは事情が違う。龍使いである勇輝の眼には、対象は既に視えている。故にその光輪は場所を定めて――ピアノの椅子と、その隣に向けて飛ばされた。




