6/10
「ひええ……口しかない……ちっちゃいけど意外とでっかい……! 何あれ! ねえ黒神!」
「下位種異獣、目隠し鬼。自分や周囲の異獣を透明化させる異獣だ。それ以外は目玉鬼とそう変わらないし、爪もない分単体の戦闘能力は目玉鬼より弱い。波動までは隠せないから、波動が視える俺たちからすれば雑魚だな」
「一般人からしたら⁉︎」
「脅威」
「だよねえ! 怖いもん見えないの!」
ぎゃんぎゃんと喚く由紀の声を聞きながら、シブキは隠れていたもう一体も勢いよく蹴り飛ばす。光の粒と化して空気中に消えていくのを確認すると、シブキはくるりと振り向いた。
「終わったぞー、お前ら! 飛ばされた器具片すから持ってきてくれ! 割れてるやつあったら注意しろよ!」
「ああ」
とはいえ、割れたり壊れたりしているものはまず見当たらない。キャッチできなかった分も、シブキは"シールドバブル"の応用で泡のクッションを作り、落下や壁にぶつかる衝撃を和らげていたらしい。全く気の利いた男である。
返事をする勇輝のすぐそばで、御神楽が目を丸くしている。勇輝は最初に飛んできたハサミを拾ってから、御神楽の肩に手を置いた。
「光輝」
「あ……ああ、ごめん。びっくりしちゃってさ」
「いきなり引っ張ったのは悪かった。驚かせたな」
「いやそれも、まあだいぶびっくりしたんだけど……それじゃなくて」
近くに落ちていたメスシリンダーを手に取り、御神楽は続ける。
「すごいんだな、って。龍魔くんも、勇輝も。あんなバケモノにも全然怖がらないで、すぐ倒しちゃった」
「……お前は、怖くなったか?」
「え?」
ふと、気になって。勇輝は控えめな声で尋ねた。
「俺やあいつのことだよ。たまにいるんだ。他人の強さを、恐れるやつが」
こんなことに怯えるのは、きっと自分らしくない。そう理解しながらも、勇輝はついそんなことを口走っていた。
守るためならば、人と違う道を進むのも、人とは違う力を振るうのも厭わない。それでも。
友人に怯えられるのは、少し悲しい。
しかし御神楽は、どことなく弱気な勇輝の言葉に笑って答えた。
「まさか。そりゃあ、驚きはしたけど……怖くなんてないよ。だって、友達だもん」
「……そうか。ならいい」
いい友を持ったものだ。そう思って、勇輝は小さな笑みを返した。
三人はそれぞれ散らかった実験器具を回収しつつ、シブキに合流する。
「つーわけで。生物室のポルターガイストは、目隠し鬼二体の仕業ってこった。ま、ポルターガイストっつったら大体コイツが絡んでんだ」
「やはり異獣が原因だったか。となると、残りの二件も」
「ああ。間違いなく異獣絡みだろうな。気ィ引き締めろよ、勇輝」
「わかっている。後ろは任せておけ」
「っはは、頼もしいぜ、相棒!」
そんなシブキたちの会話をしばらく黙って聞いていた御神楽だが、話が途切れたタイミングで、遠慮がちに「あのさ」と割り入った。
シブキと勇輝、由紀の視線が御神楽に向くと、御神楽はゆっくりと口を開く。
「さっきの丸いのとか、その……異獣? ってやつとか。どういうものなのかなって思ったんだけど……聞いても大丈夫、かな?」
躊躇い気味に発せられた御神楽の疑問に、シブキは案外あっさりと頷いた。案内役として巻き込んだ時点で、話す覚悟はできている。




