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(……お前も、いい顔になったじゃねえか)
"狂化"目目連戦以降、勇輝はどこか余裕のない表情が続いていた。何かを恐れるような、らしくもない慎重な言動が多くなった。けれど今はそうではない。
悪夢に怯える少年は、龍使協会日本支部副支部長・錦慎也の指導と、影踏み鬼との激闘の末に成長を遂げたのだ。
シブキは階段を登って二階の自室に入ると、クローゼットの中のワイシャツに袖を通す。
窓の外には雨が降っている。穏やかな雨音だった。
「強くなったな。相棒」
優しい声で水龍はそう呟く。シブキは確信している。相棒の波動は、もう何にも染められることはないだろうと。
李渦高校二年二組。勇輝と、今はシブキも属しているクラスである。
朝八時、揃って登校してきた二人を真っ先に出迎えたのは、勇輝の友人である御神楽光輝だった。
「おはよう、勇輝! 龍魔くん!」
「おはよう。光輝」
「二人とも休んでたから心配したよ。ほら、ちょっと前もいなかったでしょ?」
ちょっと前。目目連戦後の数日間のことだろう。
「あー……まあ、仕事が立て込んでたもんでな」
目を逸らしたくなる気持ちを堪えて、シブキが適当にはぐらかす。融通の効く御神楽は、あえて詮索することはしなかった。
話題を変えようとしたのか、そうでないのかは定かでないが、御神楽はふと何かを思い出したように自席へ急ぎ、ノートを一冊持って戻ってきた。
「勇輝、休んでた時のノート、いるでしょ? 各教科纏まってるから、使ってよ」
「だが……お前も使うだろ」
「授業用は別にあるから大丈夫。僕、板書とか殴り書きで読みにくくなっちゃうからさ、写し直してるんだ」
そう言って、御神楽は半ば押しつけるような形で勇輝にノートを渡す。ここまでされては断れないのだろう、勇輝も大人しく受け取って中身をざっと確認する。
勇輝とは正反対になかなかまめな男だ。感心しつつ、そろそろ鞄を下ろそうかとシブキは席に向かう――向かおうと、したのだが。
「あっ、いた! シブキくーん!」
非常に。非常に聞き覚えのある声が、後ろから響いてくるのである。
「朝からうるっせーな、由紀!」
「だって久しぶりなんだもん!」
ばたばたと走ってきた由紀は教室の入り口で急停止する。また面倒が始まるかと気が遠くなるシブキだったが、意外にも由紀の視線は外れ、勇輝の方に向けられた。
「今度は黒神が怪我したって聞いたけど、アンタ平気なの?」
「怪我?」
勇輝が答えるより先に、御神楽が反応した。心配した様子の御神楽に対し、勇輝は気怠げな表情だ。
「勇輝、怪我したの?」
「……おい、猪。どこから洩れた」
「猪じゃないっての! センリさんに聞いたんだよ、また二人が休んでるからさあ!」
由紀の答えに、今度はシブキが首を傾げる。
「センリさん……つってもお前、事務所に行く用事でもあったのか? 今回はセンリさんとこの管轄じゃねー件だったから、わざわざセンリさんの方から連絡するとも思えねーし……」
シブキがそう尋ねると、由紀はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの顔をする。なぜか仁王立ちである。
「ふっふっふ……私も! 探偵! 助手! だからね! ときどき出向いて、事務所の掃除とか買い出しとか、ザツムをこなしてヒゼニを稼いでいるのだ!」
「手伝いして駄賃もらってるって方が的確だろ、それ」




