エピローグ
その世界は異常だった。
人工的なオレンジ色に塗りたくられた空、カラフルで奇妙な色の花が咲く、どこか不気味な不思議の国。
ワンダーランド。その世界を表すには非常に適した言葉であり、事実世界の主はここをそう呼んでいた。
そこには、現実世界を映す「窓」という時空の穴が至る所に空いている。いわば管制室のような、そんな世界だ。
今も、窓から外を覗く人影が二つあった。黒外套の青年と、黄緑色のパーカーの青年。
普段はフードを深く被っている彼らだが、どうやら今はそうではないらしい。黒髪と白髪、正反対な頭が並んでいる。
彼らの元に、一匹の兎が近づいていった。二足歩行、頭身も普通の兎より高い。赤色の、中世ヨーロッパの男性貴族が着ているようなジャケットに袖を通している風変わりな兎は、黒外套の青年ににこりと笑って話しかけた。
「私の世界はお気に召しましたか?」
「さあね。居心地は悪くないけど、僕とあなたとじゃ趣味が合わなそうだ」
目を合わせることもなく、黒外套の青年は冷たい声で返す。一方、ウサギは仰々しく一礼した。
「おやおや、これは失敬。次に貴方がたが戻られる際には、手を加えておきましょう」
「いいよ。もう、戻るつもりはないんでね」
兎は持っていたトレイを近くのテーブルに置き、ティーポットを手にして三つのカップに紅茶を注ぎ始める。
「と、いいますのは……心を決められたのですか?」
「最初から決まってる。じゃなきゃわざわざ、こんな大層な依頼は受けてない」
「ふむ、真面目なお方だ」
ひとつのティーカップが一杯になると、兎は次のカップにも同じように紅い液体を注いでいく。
「時にダスプレト殿、いかがでしたか? 貴方様のオリジナルは」
その言葉に、黒外套の青年――ダスプレトは眉を顰めた。そこでようやく、彼は兎の方に目をやる。
「聞かなくたってわかってるんだろ? 僕は彼が嫌いだ。何も救えない、強くもないくせにヒーローみたいな顔してる。実際に彼を見たところで、余計嫌いになっただけさ」
「ダスプレト、落ち着け」
今まで黙っていた白髪の青年が、冷静な声でダスプレトに言う。
「……ああ、ごめん、悠。熱が入るのはよくないな」
頭を冷やすように首を振り、ダスプレトは息を吐く。兎はそんな二人に紅茶の入ったティーカップを差し出したが、ダスプレトは面倒そうに断った。それを見た白髪の青年・悠も、兎からカップを受け取ろうとはしなかった。
「では念のため、改めてお尋ね致しましょう。ダスプレト・ディノ殿、白神悠殿。お二方は、彼を――龍魔飛沫を、討って頂けますか?」
「当然。そのために光天に来たんだ」
悠が頷く横で、ダスプレトの深紅の瞳が、殺気を宿してぎらついた。
「必ず殺すよ。僕の手で」
低く宣言したその音色は、誰かの音によく似ていた。
ここまで読んでくださりありがとうございます!
強敵・アキレアを撃破したシブキたち。
しかしまだ不穏な影は消えていない様子。
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次回からはChapter.5が開始します。お楽しみに!




