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「彼女、結構面倒くさい部類の客人だから、せいぜい頑張れよ」
「えっ」
「副支部長、それは……」
「じゃあな、俺は仕事に戻る。田村さん、失礼します」
「あっ、ありがとうございました、錦さん!」
二人の疑問符など気にもせず、錦はとっとと扉の外へ出て行ってしまった。
彼らが錦の言葉の意味を痛いほど実感するまで、あと数分。
「……逃げたな、副支部長」
「俺ら置いてかれたなコレ」
「あの、シブキさん!」
「お、おう」
困惑しているシブキに、由紀がボリューム高めの声で話しかける。
「昨日は助けてくれて、ありがとうございました!」
「あー、いいって。気にすんな」
「それと!」
「……それと?」
その言葉の続きに、二人ともなんとなく、嫌な予感がしていた。もしかしてこれが――。
「好きです! 付き合ってください!」
「……」
「…………」
――副支部長の言っていた面倒って、これか。どこか達観してそんなことを考えているのは、混乱している証拠でもある。
「………………はぁ⁉︎」
「こいつはやらんぞ」
「なんでお前が答えてんだよ‼︎」
否、動揺していたのはシブキだけだったらしい。勇輝の方は至極落ち着いてそんなことを言っている。いやこれはこれで錯乱しているとも、言うのかもしれないが。
「こいつは俺の相棒だ。誰にも渡さん」
「だからなんでアンタが答えてんのよ! アンタはなんなの⁉︎ 保護者か何か⁉︎」
「相棒だが」
「何、もしかしてアンタ……ソッチ系の人⁉︎ 私の恋敵になろうってわけ⁉︎」
「ソッチ系でもアッチ系でもないしこいつと俺の間に恋愛感情はないがこいつは俺の相棒だ、それ以上の関係に赤の他人がなることはこの俺が決して許さん」
「ノンブレスで言い切りやがった……」
妙な三角関係が構成されている。確かにこれは面倒だと、シブキはどこか上の空で思った。
まあ面倒だったのは由紀だけでなく、相棒もだったわけだが。むしろ相棒のせいで話が余計拗れている。
「アーンーターにー聞いてないっつってんのー! ねっシブキくん!」
「突然馴れ馴れしいな⁉︎ ひとまずお前ら落ち着けよ!」
「そこは『私のために争わないで』みたいな気の利いたセリフを言って盛り上げるところだろう、そんなんでは第二階位にはなれんぞ」
「そんな第二階位お断りだし盛り上げるどころか火に油だわ!」
「そうよ! そこは『みんな……俺のために……っ』て涙を流して訴えるのがセオリーでしょ!」
「お前のセオリー通用するトコこの世界にゃねェよ‼︎」
二名による怒涛のボケをきびきび捌くシブキ。業務中の支部員に配慮して声を落としながらツッコミを入れていたが、普通に声を張るより神経を使ったせいか、疲れて肩で息をしている。心労も多少、いや多分にあるかもしれないが。
しかし言われっぱなしも気に食わないようで、シブキは呼吸を整えた後、ため息一つで気持ちを切り替え、それからすう、と息を吸い込む。
そして一息に、言いたいことと一緒に吐き出す!
「ああもう、落ち着けっつってんだろーが! 別室では支部員が仕事してんだから騒ぐな、二人とも一旦座れ!」
無論配慮を示しているのでややセーブの利いた怒声である。しかしそれがむしろ功を奏したらしい。
「む……」
「んぬぬ」
ただ声を荒らげたのではないところに得体の知れぬ恐ろしさを感じたのだろうか。不服そうな声とともに勇輝と由紀は席に着く。




