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剣を構え直したシブキに、影踏み鬼は突進を開始する。この短時間の間で、すでに折れたツノは回復しているようだった。
避ければウェルテクスと谷北が危険だと判断し、シブキはそのツノを剣で弾いた。ツノは頬にかする程度で済んだ――が、影踏み鬼の攻撃手段は、ツノだけではない。
派手に立ち回れないシブキの影に、影踏み鬼のひづめが触れた。それが重なったのはただの一秒にも満たない間だが、影踏み鬼の能力は――空間生成を応用したトラップは、しっかりと発動してしまったらしい。
シブキの足元がぐらつく。影は先ほど拐われた時と同じく沼のようになり、シブキの足首に纏わりついて拘束する。
「ッくそ、また……!」
どうにか抜け出そうとするシブキに背を向け、影踏み鬼は狙いを変える。
赤い単眼、映し出された標的は――。
「勇輝!」
シブキの声とどちらが早いか、影踏み鬼が凄まじい勢いを伴って地面を蹴る。勇輝はその突進を、あえてかわさず鎌で受けた。
結界を張る暇はない。かといってここで回避して、もし影踏み鬼が影に潜り、その上ウェルテクスや谷北たちを狙ったりなどすれば、どうなるかは目に見えている。故にここで決めようと、逃げずに立ち向かったのだ。
しかしいくら鍛錬を積んでいて人より力の強い勇輝であれど、所詮は人間。鍔迫り合いが長引けば、確実に圧し負ける。
影踏み鬼の左ツノの先端が、鎌の防御をすり抜けて勇輝の左肩に刺さる。じわりと滲んだ血液が、ツノと肉の間から地面に滴り落ちていく。当然、ここで波動術を使えるほどの余裕もない。
どうにかできるのはシブキだけだ。シブキが今、一刻も早く動かねば、きっと勇輝は影踏み鬼に力負けする。そうなった末にある未来など、考えたくもないのに。
動けないもどかしさに襲われるシブキの背を、ふと風が、押した。
そよ風は数秒の間をおいて強風に変わる。驚いて振り向けば、ウェルテクスに寄り添う谷北が、シブキに向かって"翠嵐"を放っていた。
「早く行け! 俺の"翠嵐"とお前の瞬発力があれば、その程度振り払えるはずだ!」
必死で、それでもその声は強く轟いた。
まだ終わっていない。悔いるようだったシブキの表情は、不敵な笑顔へと変わっていた。
「……サンキュー、谷北」
風が強い。感謝のセリフは届いただろうか。わからないが、今はそれより重要なことがある。
シブキは足を捕らわれたまま、体勢を低く、前に倒す。腰の左横に剣の刃を当て、居合の構えをとる。
そして、敵を視界の中央に捉えて。
「"ストリームスプラッシュ"」
静かに落とされた言の葉とは正反対な、眩いばかりに派手な青い波動と、激しく渦巻く水の流れがシブキを包み込む。その技が完成された瞬間、シブキは全体重を右足に乗せ、地面を蹴りつけた。
ごう、と唸りを上げているのは風か、はたまた激流か。前方へかかる強い力に、シブキの足に絡まった影の拘束は引き剥がされる。
そこから先は刹那の時間だった。ただでさえ速いシブキの居合と追い風による加速により、瞬きする間もなく距離を詰めたシブキは、鋭い一閃で異獣の首を斬り落とした。
消滅の瞬間、一ツ目のその異獣と――アキレアと、シブキの視線が交差したような、気がした。




