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「君の波動は、眩しいくらいに綺麗だ」
「は――おい、どういう、」
「時間切れだ。もう君と話すことはない」
瘴気が、アキレアを呑み込んでいく。
「勝った方が正義ってね。いっそわかりやすい方がいい」
敵意も、悪意もそこにはなく、ただそう在ったが故に、それは世界に仇をなしたのだ。
運命なんて陳腐な言葉では片付かない。それはもはや呪いの域だ。
――アキレア。その名の由来を、シブキはふと理解した。幼い頃、姉であるクサキがよく植物のことを教えてくれた。アキレアは確か、ノコギリソウの別名だ。
ノコギリソウの、花言葉は。
「……勇敢と、戦い、か」
黒い竜巻のように渦を巻く強大な瘴気の前で、シブキは小さく呟いた。
最初から、アキレアはその身を戦いに――「聖戦」に捧げるつもりだったのだろう。
その気概は不条理にも、龍という、異獣と対角の存在であるシブキのそれと酷似していた。
同じ動機だ。同じ気持ちだ。だからこそ、絶対に分かり合えないのだ。
瘴気の雲が晴れた。そこに在ったのは、思考をする知的生命体ではない。
"狂化"により、影踏み鬼の変化は解けていた。片側だけだったツノは二本に変わっている。それがもう理性のない怪物であることに疑う余地はない。
こうなれば一筋縄ではいかないだろう。苦戦を覚悟で剣を構えたシブキだが、影踏み鬼はシブキに攻撃をすることはなく、文字通り闇に溶けて姿を消した。
途端。主人の制御を失ったのだろう、影の空間が大きく揺れ、崩壊が近いことをシブキに知らせた。
(……あんま考えてる暇、なさそうだな)
恐らく、影の空間が崩落すれば、幽閉されたシブキも無事では済まない。どこかに脱出の糸口はないかと、シブキは辺りに視線を巡らす。少なくとも周りには何もない。
或いはこちらか。そう思ってシブキは頭上を見上げる。
皆既日食にも似た、見覚えのある淡い光の輪が、どこまでも暗い空にぽつりとあった。
それが何であるかの予想がついて、シブキはに、と不敵に口角を上げる。首に巻かれた紺色のマントはその瞬間虚空に消えて――彼の背に、波動が変化してできた蝙蝠のような龍翼が一対。
ばさりと力強く羽ばたいて、シブキは光輪めがけて真上に飛び立つ。宛が外れていたらなどと恐れている場合ではない。
シブキの右手が光輪に触れる。光であるからには当然感触はない。しかし代わりに、光輪から人の手が伸びて、シブキの手を確と掴み引っ張り上げた。
瞬き一つの間に、シブキの視界に映る世界は様相を変える。そこにはもう闇はない。夜の路地裏。元の世界だ。
シブキの手を掴んだのは勇輝だった。あの光は、間違いなく勇輝の"月輪"によるものだろう。
「シブキ、無事か?」
「やっぱお前だったか、勇輝。ありがとな」
「いい。助けられてよかった」
安堵の表情を浮かべる勇輝に笑いかけ、シブキは背に生やした龍翼を、いつも通りの紺のマントに変化させて首に巻く。
しかし、まだ何一つ終わってはいない。問題はここからだ。
息つく暇などろくになく、"狂化"した影踏み鬼が姿を現した。谷北の背後から飛び出たそれは、華奢な彼の身体を貫かんとツノを突き出し突進する。




