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「僕にはできるんだよ。ようこそ、僕の世界へ」
シブキの独り言に返事をしたのは、シブキと同じ声。しかしそれが、シブキに化けた影踏み鬼の――アキレアの声であることは明白だった。音が不自然に反響して、方向は特定できない。
「テメェ、どっから」
「さあ。どこだろうね?」
からかうような音色でアキレアは返す。耳で拾うこともできなければ、闇しか映らない以上目を頼りにすることもできない。アキレア本人の空間である以上瘴気は充満していて、波動視も使い物にならない。
「まあ、そう焦るなよ。少し話でもしよう」
警戒を絶やさないシブキに対し、アキレアの言葉は一見軽薄だ。腹の読めないセリフに、シブキの剣を握る力が少し強くなる。
「君たちは――人間、幻獣、そして龍という生き物は、どうにも排他的で身勝手だ。これは在るべきもの、在るべきではないものと勝手に決めつけて、自己本位な物差しで他者を測ろうとする」
「どういう意味だ」
「そのままの意味さ。頭の堅い君にはわからないかな」
構わず語るアキレアの声が、そこで途切れた。そして――次の声は。
「これは、除け者たちの聖戦だ」
真後ろから、聴こえた。
咄嗟にシブキは振り向き、アキレアの奇襲を受け止める。
「聖戦、だって……? こんなテロじみた虐殺の、どこが聖戦だってんだ」
「それを言うなら君たちも同じだ。それとも君は、龍のする殺しは正しくて、異獣のする殺しは間違っているとでも? 異端者は抵抗もせずに殺されてろって? そんなのは御免被るね」
「……ンな都合よく捉えちゃいねえよ、俺だって」
アキレアの剣を弾き、シブキは後退して距離をとる。
「俺もお前らも、本質はなんら変わりゃしねえ。戦いに正義も悪もねーよ」
「なら、」
「けど」
シブキの剣の切っ先は、真っ直ぐにアキレアの方へと向けられた。
「俺にも、守らなきゃいけないもんがある。例え手を汚すことになろうとも」
正義なんて、結局は意見の押し付けだ。そんなこと、シブキはとうの昔に理解している。
理解した上で、それでも戦わなければ守れないものがあると、幾度となく思い知らされたのだ。
それは、きっと。目の前の異獣も、同じことなのだろう。
「……はは、君はそのたちか。立場が違えば、仲良くなれたのかもしれないのにな」
全員が全員、ただ盲目に、異獣というものを悪と決めつけて戦っているわけではない。
これは結局、正義の戦いでも、聖戦でも、テロでもない。
それぞれの種の、生存競争の延長に過ぎないのだ。
和解ができるならそれがいい。けれどこの世界の仕組みは、異獣という存在が望まずとも放つ瘴気は、そんな甘ったるい考えを容赦してはくれない。
「どこまでいっても、僕らは敵同士だ。僕が異獣の方が大事なのと同じで、君もそうなんだろう。そうだ、だから僕は、ここまでしたのだから」
ここまで、というのが一体何のことを指しているのか、察するのに時間はかからなかった。アキレアの纏う瘴気が、強く、濃く、変化していく。
「ああ……でも少し、残念だな」
黒い煙となって具現化した瘴気が、アキレアを覆っていく。その黒煙に紛れて、シブキの顔をした一匹の異獣は、ひどく哀しげに笑った。




