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敵は戦いに慣れた影踏み鬼。シブキよりも単純な戦闘能力は劣っているし、数の上でもシブキたちが圧倒的に有利だ。しかしそれだけ戦力の違いがあってもなお、今この瞬間、確かにシブキたちは追い込まれつつある。
探せ。突破口を探し出さねば、このまま一人ずつ倒されて終わりだ。勇輝の"月輪"では時間がかかりすぎる上、使用中は無防備になってしまう。この状況を覆す一手を、敵より先に動く方法を、この目で見つけ出さなければ。
ふと。シブキの目の隅、そこに映った勇輝の影が、不自然に揺れた。
「そこか!」
気がついた瞬間、シブキはほとんどのタイムラグもなく動き出す。両刃の剣が、地面にできた勇輝の影を突き刺した。直後、予想通りアキレアが影から姿を現す。
シブキの剣をかわしたためか、アキレアが攻撃に入るまでの速度は先ほどまでよりやや遅かった。
故に、勇輝が振り向きざまに選んだ一手は――防御ではなく、反撃の糸口だ。
「波動術――"射光線"!」
至近距離で繰り出された光の矢。火力のある部分こそ避けられたものの、アキレアはその閃光を視界いっぱいに映してしまった。怯んだアキレアの変化は解除され、それは黒い鹿のような元の姿に戻る。
最大のチャンスだ。ここを逃して敵に猶予を与えてはいけない。当然見逃すはずもなく、アキレアに向けてウェルテクスが"スクラッチストーム"を叩き込んだ。かろうじて弱点の目玉には当たらなかったが、影踏み鬼の体は派手に吹き飛んだ。
飛ばされた先の壁を四つのひづめで蹴りつけ、アキレアはすたりと着地した。その後すぐに物陰に潜って、狡猾な鬼はまた様子を伺い始める。
けれど、少なくともシブキには、もう影からの奇襲は通じない。アキレアの出現直前、その場所の影が雫に打たれた水面のように揺らぐ。それにシブキは気づいているのだ。
そしてやはり今度も揺れる影があった。一体目の影踏み鬼が隠れていた換気扇の影だ。すぐさまシブキは影に向かって走り出す。
「勇輝、あそこだ!」
「ああ!」
勇輝が援護で放った"射光線"と共に敵の隠れたそこへ。影に剣を刺せば、確かな手応えが伝わってくる。
当たった。そう確信したシブキは、アスファルトの地面にできた影の沼地から剣を引き抜く。
――が、剣が貫いたのは、アキレアのツノの欠片だけだった。ダミーだ。では本体はどこにいる? 予測をつけるのは簡単だ。
まずい。振り向いた時にはもう遅い。ツノの先端の欠けた影踏み鬼が、シブキの影を確かに踏んでいる。血のような真っ赤な単眼が、じっと、シブキの海色の瞳を凝視している。直後、シブキの足元がぐらりと揺れた。
真下の影は墨にも見えるほど黒く濃くなり、底なし沼の如くシブキの足を、全身を沈めていく。
「くそッ……!」
「シブキ‼︎」
勇輝がシブキに手を伸ばした時には既に、シブキとアキレアは影の下の世界へと引きずり込まれていた。
そこに光はなかった。ただ、墨汁で塗りたくったような闇が、ひたすらに広がっているだけの世界。その世界の主が誰であるかなど、考えるまでもない。
シブキは真っ暗な四方を見渡す。一体広いのか、狭いのか、それすらもわからないほど、その世界は黒に満たされていた。
「影踏み鬼の空間生成……けど、引きずり込むなんて聞いたこと……」




