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ウェルテクスの呼び声を聞き、谷北は慣れた動きで彼の背に飛び乗った。細身だがホッキョクグマほどの大きさだ、歳の割に小柄な谷北を乗せたくらいではふらつきもしない。
ウェルテクスは相棒が騎乗したのを確認し、両翼を力強く羽ばたかせる。猛禽類のそれのような四つ足が、地を離れ宙に浮き上がる。
敵が手の届かぬ場所へ行く前に飛びかからんとした影踏み鬼だが、行動に移す前に谷北が気づき、ぱっと左手のリングルをかざす。リングルには、ウェルテクスの胸にあるペリドットのような宝石――及び、龍の波動核――と同じ、逆三角形の龍結晶が嵌め込まれている。
「龍術――"翠嵐"!」
谷北の声に応えるように、リングルの龍結晶が淡く輝きを帯びる。刹那、龍結晶から影踏み鬼に向かって放たれた激しい風が渦を巻いた。小規模な竜巻に押され、影踏み鬼は身動きが取れなくなる。
その間に十分な高さまで上昇したウェルテクスは、空中でぴたりと止まったかと思えば、今度は影踏み鬼に向かって急降下を始めた。谷北は"翠嵐"を中断し、ウェルテクスの背に両手でしっかりと捕まっている。
ごう、と湿った風を縫い、夜の空を緑の彗星が駆け降りる。標的が近くなってくると、ウェルテクスは右前足をぐっと後ろに引いた。
そしてまもなく影踏み鬼と衝突する、といったところで。
「"スクラッチストーム"!」
叫んだウェルテクスの右前足の爪は風の刃を纏う。その爪は、影踏み鬼の左肩から右前脚の付け根辺りまでを切り裂いていく。渦を巻く風圧はかまいたちのように、爪で切れた黒い皮膚を抉る。
鋭い一撃の後、ウェルテクスはもう一度上空に舞い戻り、今度は降下はせずに翼を広げた。鷹や鷲のような立派な両翼が空を覆う。
「こいつも喰らいな! "ダストデビル"!」
思いきり勢いをつけて、大きな翼が羽ばたく。それによって発生した風圧を自身の波動で強化し、尋常ではない局地的な嵐で影踏み鬼を襲う。体勢を整えられず、影踏み鬼は脚をもつれさせた。
そして――ぴたりと風が止んだのと、同時に。
一閃。シブキの剣が、影踏み鬼の目を斬り裂いたのである。
「さすがっす、シブキさん!」
「お前らもよかったぜ! お疲れさん!」
龍使いの的確なサポートと、龍たちの息を合わせたコンビネーションにより、上位種異獣・影踏み鬼は危なげなく討伐された。
ウェルテクスが地上に足をつけると、谷北もすぐに彼の背から降りる。
「なるほどな、索敵特化の術か。なかなかにやるな、黒き光の使い手よ」
「……ダサい呼び方はやめろ」
「なっ……ダサいとはなんだ、ダサいとは!」
直球で投げられた勇輝の物言いに、谷北は心外だと言わんばかりに声を大きくした。
まだ人間の齢でも若い二人の龍使いの、戦闘が終わった直後とは思えないような言い争いに、シブキとウェルテクスは思わず笑いをこぼす。
「く……ハハ、ほんっとバカみてーだな!」
「ウェルテクス、お前まで……バカだとは聞き捨てならないな!」
「まあまあ、喧嘩なら明日にでもゆっくりやれ。もう遅い時間だぜ」
「そういうお前も笑っていただろう、シブキ」
「おっと……さすがにバレちまってたか」
けたけた笑いながら軽口を叩き、さて帰ろうかとシブキが路地を引き返そうとした――その時。




