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しかし光といえどその本質は勇輝の波動そのものである。単純にいえば、波動を光の形で可視化させたものが"月輪"だ。それはただの光源以上の役割を持つ。
"月輪"の光は、波動や瘴気に反応して一段強い輝きを放つ。事実、今も"月輪"に触れているシブキやウェルテクスたちの周囲は明るい。まるで彼らが光を放っているように側からは見えるが、実際は彼らの波動に反応した"月輪"の光だ。
即ち。"月輪"は索敵のための波動術である。隠れ上手な異獣の瘴気を型取り炙り出す、単純ながらも強力なサーチレーダー。影に身を潜めている標的を見つけ出すにはもってこいだ。
"月輪"の光が強く反応した場所は――左手前の換気扇と、右奥のガスメーター。それらの落とす、夜の闇より一段暗い影。
「そこか」
ぱっと開いたアメジスト色の瞳で素早く辺りを見回し、勇輝は"月輪"の照らした二箇所へ向けて"射光線"を放つ。すると、眩い光の矢をかわそうとして、影が揺れて黒い塊が飛び出した。
ひづめのついた細い脚と体躯は鹿のようで、しかし鹿にしては異様に黒く、暗く、顔には大きな目玉がひとつしかない、異形の怪物が二体。影踏み鬼だ。
「でかしたぞ、勇輝!」
言うが早いか、不敵に笑ったシブキはアスファルトを蹴りつけ体勢を前に倒す。手前の一体はウェルテクスたちに託し、右奥の一体に狙いをつけ、夜の風を切って駆ける。眩しさで目を眩ませている影踏み鬼に急接近し、弱点の眼球を狙って突きを繰り出す。
寸前で影踏み鬼は身を屈めて回避した。そのまま素早い動きでシブキの影を踏もうと回り込む――が、それは敵わず、シブキの左後ろに控える勇輝の大鎌によって阻まれた。
勇輝は鎌の刃で影踏み鬼の長い首を引っ掛け、そのまま大振りで弾き飛ばす。
「背中は任せろ」
「ナイスだぜ、相棒!」
影踏み鬼が起き上がるより先に、シブキは影踏み鬼の目に斬撃を浴びせた。切り口からぴしゃりと黒い液体が飛び散り、シブキの頬を汚したが、すぐに影踏み鬼の本体共々光の粒と化し消滅する。
何も切っていないと言われても疑わないほど綺麗なままの剣を、シブキはあえて血を落とすように一振りした。
「さて」
まだ終わりとはいえない。シブキの視線は自身の後方、もう一体の影踏み鬼と戦うウェルテクスたちに向けられた。
シブキが奥の影踏み鬼へ駆けていった頃、ウェルテクスと谷北もまた、手前の影踏み鬼と対峙していた。
人のかたちをとっていたウェルテクスだが、異獣を前にするとひとつ息を吐き、同時にその姿を変える。
彼の波動は風となって具現化し、巻き起こった砂塵が身体を包み込む。それもほんの二、三秒のことで、すぐに風は止んだ。
そこに在ったのは、後ろ向きに伸びた赤いツノを頭部に二本掲げ、コバルトグリーンの羽毛を纏った四足の獣だ。ばさりという音とともに、背に生えた大きな両翼が軽く羽ばたく。鳥に似た脚と嘴を持ち、細長い尾はライオンや馬のそれを髣髴とさせる。赤色の鋭い眼は、目の前の敵をまっすぐ見つめている。
それは彼の種族名通りの、グリフォンのような姿だった。シブキら純龍族よりも波動の燃費がいい彼らグリフォン族は、人の姿ではなく龍の姿で戦うのだ。
「翔!」
「ああ!」




