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相当なお人好しだ。他人事のように思いながらも、勇輝の心中に、躊躇いを振り払う火が灯ったような気がした。
「……はい。副支部長もお気をつけて」
「ああ。無事に戻れよ。じゃあ」
強く放たれた勇輝の返答に満足したようで、錦はマフラーの下で口角を緩め、背を向けてヒョウや柚木たちの方へ歩いていった。
「やっぱカッケーよなあ、あの人、漢気があるっつーか」
思わず感嘆の声を漏らすウェルテクスに、谷北がこくりと頷く。
「深く揺るぎなく、しかし暖かさのある闇……まさしく夜明けのような方だ」
「そうだな。その喩えはよくわかんねーけど」
そんな谷北とウェルテクスのやりとりを横目で見つつ、シブキもヒョウたちと逆の方向――町の北方へと歩き出す。
「ほら、そろそろ俺たちも行くぞ。気ィ引き締めろ」
「ういっす」
「戦いの準備はできている。問題ない」
軽快なウェルテクスの返事と、妙に重々しい谷北の返事はまるで正反対だ。独特な関係性である。
二人の返答の後、勇輝も静かにシブキの隣へやってきた。
「お前もだぜ、相棒。気合い入れてくぞ」
「ああ。任せろ」
昨夜とは違う、芯の通った返しに、シブキは笑みを浮かべた。
「そうこなくちゃな」
どちらからとでもなく軽く拳を突き合わせ、暗い町を歩き始める。湿った風が吹き抜ける静かな夜の街路に、四人分の足音だけが響く。
「そういや、結構久々っすよね。シブキさんと同じ任務って」
ふとウェルテクスが言うと、シブキは振り向かずに「だな」と返す。
「お前が谷北と契約して人間界に出てきたの、ちょうど俺が龍界に帰ってた時だもんな」
「そうそう。タイミング合わなかったんすよね」
「お前の実力はウェルテクスから聞いている。若くして大水龍と呼ばれるその手腕、見せてもらおう」
「ンな大層なもんじゃねーっての。勝手に呼んでる奴がいるだけだ」
一部の龍から言われている称号で呼ばれ、シブキはかったるそうに頭を振った。自分の実力ではまだ、賞賛を受けるには程遠いと、戦いを重ねる度に思い知らされるのだ。
取り留めのない会話を交わしながら歩くこと十数分、先頭を歩くシブキが、ふと足を止めた。目を細め、路地奥の方を睨むように見つめている。
普通の生物の水晶体には映らない歪みが、そこにあった。
「……瘴気だ。多分、影踏み鬼の。勇輝、準備しろ、さっそく新技のお披露目だ」
「わかった」
手短に指示を出して路地の奥へ向かうシブキを、勇輝が頷いて追う。ウェルテクスと谷北がそれに続く。
建物の陰に囲まれた路地奥は当然、大通りより幾分か暗い。視界の悪いその空間で、勇輝がシブキより一歩だけ前に立った。右手を緩く開いて前に出し、目を閉じる。
「波動術――"月輪"」
静かに落とされた言の葉とともに、勇輝の掌から淡い光が広がっていく。波紋のように、それは辺り一帯を波状に巡る。術に集中する勇輝の後ろで、ウェルテクスが首を傾げた。
「シブキさん、これは……」
「まあ見てな。すぐにわかる」
返しながら、シブキは相棒の様子を見守っている。既に右手には剣が握られていた。
"射光線"の要領で波動を光に変換した"月輪"には、攻撃力はない。レーザー光線のように光を集中させた"射光線"に対し、"月輪"はもっと薄い光の波だ。




