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誤魔化そうとした言葉を無視して、シブキは刺すような鋭さで勇輝を見る。正確には、勇輝の波動を視透かしているのだろう。少しでも揺らいだその波動を、相棒は見逃してはくれないようだった。
嘘や言い逃れは、シブキには通じない。わかりきっていたから、勇輝は早々に観念して頷いた。
「……ああ」
そうだ。シブキに重傷を負わせた目目連は上位種異獣だった。シブキの力を軽んじているわけではないけれど、それでも初めて見た相棒の大怪我は、経験の浅い勇輝にトラウマを植え付けるには十分すぎたのだ。
柄になく気弱な面持ちの勇輝に、シブキは優しく笑いかけた。
「大丈夫だよ。俺もお前も、ちゃんと強くなってる。次は上手くやれるさ」
「上手く……か」
「おう。新技、このために磨いてきたんだろ?」
勇輝の肩に右手を置いて、確信を込めた声でシブキが言う。照明に照らされて淡く光る海色の瞳が、真っ直ぐに勇輝の目を捉えている。
それはただ慰めるための世辞などではなく、疑心など一切ない信頼の故に発せられた言葉だ。
「……そう、だな。そうだ」
頬を緩ませ、勇輝はそう返した。外から入り込む湿気た風も、今はもう気にならない。
「派手にかましてやろうぜ、相棒」
「ああ」
シブキが差し出した拳に、勇輝が己のそれを合わせる。
窓の外、雲間から覗く下弦の月は、煌々と輝いていた。
翌夜、九時五十分。曇り空の下、こんな時間であるというのに李雨河公園には人影があった。そのうちの一人――龍魔鴉黒斗が、自分達の方へ歩いてくる二人の青年に気づいて手を振る。
「よォ、シブキ、勇輝!」
闇に紛れてしまいそうな黒いスーツに身を包んだアクトは、に、と笑って言った。
公園にあった人影は四つ。真っ先にシブキたちに気づいたアクトと、錦、ヒョウ、柚木だ。シブキと勇輝も集合時間の十分前にやってきたわけだが、四人はさらに一足早く待っていたらしい。
近づいてきた二人に、アクトに続きヒョウも振り返る。どこか落ち着かない表情で、ヒョウは黙ってシブキに近寄る。
「ヒョウ兄?」
どうにもいつもと様相の違う兄をシブキが見上げると、ヒョウはふっと頬を緩めて普段通りの穏やかな笑みを浮かべた。
「……元気みたいだね。よかった」
そのセリフで、シブキは兄の様子がおかしかった原因を理解する。考えてみればわかることだ。常に凛としている龍魔兄弟の長兄が平静を乱す理由なんて、大抵一つと決まっている。
「あー……ごめん。色々心配かけたよな」
弟妹を何より大切に思うヒョウにとって、目目連戦の一件は相当気掛かりなものだっただろう。支部の医務室で目覚めた際も、シブキはぴりついてしまってろくに兄と話していなかった。あれでは不安にさせて当然だ。
「まァまァ」
ヒョウが返事をするよりも先に、すぐそばにいたアクトがぽんとヒョウの背を叩いて口を開いた。
「コイツが心配しすぎなんだよ、気にすんな」
「まあ、否定はしないけどさ」
茶化すように言うアクトに、ヒョウは困り笑いを返す。
「シブキは大丈夫だっつったろ?」
「そうだね。杞憂だった」
自信ありげな次男の言葉で、ヒョウの憂鬱も晴れたらしい。幾分か明るくなった長兄の返答に、アクトも満足げに笑う。




