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それでも。
「いいんだよ。これは僕の呪いだ。因縁だ。僕が決着をつけなきゃいけない」
返される言葉は大体予想通りだ。
今更退く気がないのは、どちらも同じなのである。
白髪の青年は、少しだけ寂しそうな笑みで答えた。
「……そうだな。野暮だった」
「気にしてないよ。付き合わせてるのは僕の方だしね」
そう言って、黒外套の青年は空を見上げる。
白髪の青年に向けたのとは違う、どこか自嘲的な笑顔で、黒外套の青年は呟いた。
「――僕が、彼を赦せなかっただけの話だ」
僅かに雨気を含んだ風が重く走る。
薄い雲に覆われて、その晩の月は見えなかった。
六月下旬の夜風は生温い。湿気と熱を含んだ風が、開いたままの窓から吹き込んでくる。べたつく横髪を鬱陶しげに耳に掛けながら、勇輝は食卓に食器を並べる。
火曜、時刻は夜七時。シブキが主導で作ったカレーライスと、スーパーで購入したミックスサラダがテーブルを彩る黒神邸。二人暮らしには幾分か広い居間。そこにふと、勇輝の携帯から着信音が鳴り響いた。
右手に持った銀のスプーンを置いてから、勇輝は端末をポケットから取り出し発信者を確認する。表示された文字列が予想通りだったためか、勇輝の眉が寄せられた。
「……支部長からだ。出るぞ」
「おう、わかった」
調理器具を洗う手を止めて、キッチンにいたシブキも勇輝の方へと向かう。柚木からの電話とくれば、語られる内容は決まっているからだ。
勇輝は端末音声をスピーカーに切り替え、着信に出る。
「はい、黒神です」
『もしもし、勇輝くん。夜分遅くにすまないね』
端末から聴こえてきた柚木の声は相変わらず落ち着きを払っているが、連絡内容はきっと穏やかなものではないはずだ。
「構いません。異獣ですか」
『ああ。……影踏み鬼の反応が強くなったんだ。恐らく明日には顕現する。明日の二十二時、李雨河町で影踏み鬼の討伐に当たる。僕とヒョウ、シンとアクト、翔とウェルテクスで向かう予定だ。敵の数が多いから、君たちにも協力を要請したい』
「わかりました。集合場所は?」
『李雨河公園だよ』
「了解です。では明日二十二時、李雨河公園で」
『ありがとう、頼んだよ。じゃあ、また明日』
要件を伝え終えた柚木は柔らかな声色でそう告げ、通話を切った。いかにも話が好きな好青年という印象を与えがちな彼だが、存外無駄話をするたちではない。
話を終えた勇輝は、端末をしまってからシブキに向かい合う。
「そういうわけだ、シブキ」
「いよいよか。気ィ引き締めねーとな」
「そうだな」
残りの洗い物を片付けに戻るシブキを見送った勇輝の表情は、どこか冴えない。気を紛らわせるように、耳に掛けていない左側の横髪に指で触れる。
あれから、どうにも不安が拭いきれない。"狂化"目目連の一件以降、異獣と対峙するときの勇輝の脳裏に、鮮明に浮かぶ光景があるのだ。
「……どうかしたか、勇輝?」
フラッシュバックする光景に眉を顰めていると、いつの間にか洗い物を終えて勇輝の前に戻っていたシブキが、案じるようなトーンで声をかけてきた。
自分が心配される側では世話がないと、勇輝は首を緩く横に振ってこびりついた思考を振り払う。
「なんでもない」
「上位種戦だから、か?」




