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単純で、けれどそれ故に見落としていた事実に、シブキの表情が幾分か和らいだ。
「……ありがとな、兄さん」
「オレはなんもしてねェよ。……さ、もうちょい練習してェんだろ? 時間が許すまで付き合ってやらァ。めんどいから竹刀はナシでいいよな!」
言いながらアクトは大きく後ろに跳んで距離をとり、シブキも頷いて実戦で使っている片手剣を生成し、構える。
触発された勇輝も自主練でもしようかと考えたが、錦の鋭い視線が突き刺さって動きを止めた。
「黒神、お前は観戦だけにしていろ」
「俺もまだ平気です」
「わかってる。だが忘れるな、俺たちは人間だ。あいつら龍とは、体力が全く違う」
はっきりとした警告だ。錦の視線は勇輝から外れて、シブキとアクトの方に向く。
「あいつらはあれだけ動いた上で任務もこなせるが、俺たちはそうもいかない。無理に練習を重ねれば、実戦で怪我をするリスクは高くなる。休むことも仕事だ」
「……はい」
不満がないといえば嘘になる。だが、錦の言うことはもっともだった。相棒を支えるための努力が、相棒に迷惑をかける結果に繋がっては元も子もない。早る気持ちを押し堪えて、勇輝は静かにシブキたちに目をやる。
シブキと勇輝のそれぞれの瞳には、強さへの執念が炎のように宿されていた。
夜の帳が下りた、午後九時過ぎ。李雨河町の大通りは、立ち入り禁止のテープで封鎖中されている。
夕方に到着したシブキたち四人は、東西で二手に分かれて標的の出現を待っていた。シブキと勇輝が任されたのは西側である。
静まり返ったそこで、耳を澄ませていたシブキが、ふと口を開いた。
「――来た」
言うが早いか、一匹のネズミが現れる。普通のネズミでないことは、凶器のような牙と黒く濁った目からはっきりわかる。襲いかかってきたネズミ――下位種異獣・鉄鼠を、シブキは迷いなく剣で斬り裂いた。
それから堰を切ったように、どこからともなく大量の鉄鼠の群れが湧き出してくる。勇輝は一歩前に出て鎌で薙ぎ払い、仕留め損ねた個体をシブキが素早く始末していく。
しかし第二波、第三波と、鉄鼠たちは次々と襲い来る。一匹一匹は強くないものの、これでは。
「キリがないな……!」
「地味なくせに長丁場で、とにかくめんどくせえのが鉄鼠戦だ! 手ェ止めんなよ相棒、噛まれたらもっと面倒だぜ!」
面倒だと言う割に、シブキの声はわずかに弾んでいる。久しぶりの実戦だからだろうか。
片っ端から鉄鼠を斬り倒し続け、少しずつだが鉄鼠の数は減っていった。しばらくしてついに最後の一匹となり、それをシブキは剣を突き立て刺し貫く。
「っし。大体こんなもんだろ」
「やっとか……」
錦が体力を温存しておくように言った真意が、今の勇輝にはわかった気がした。下位種相手と多少侮っていたが、存外大変な仕事だったようだ。
けれど、安心したのも束の間で。
「……いや」
シブキが、おもむろに否定の言葉を落とした。まだいるのかと、勇輝は眉を顰めてシブキの視線の先を見る。彼は鉄鼠が行動する地面とは逆の方向を――空を、見つめていた。
「もうちょいかかりそうだぜ」
「どういう――」
「構えろ、相棒!」
勇輝の質問をかき消して、シブキがそう叫ぶ。次の瞬間、キイ、と金属の擦れるような音がした。




