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「お前と会うのも、手合わせするのもしばらくぶりだからだろうが……結構はしゃいでるな、あいつ」
「やっぱそうですよね……」
いつもよりテンションが高いような気はしていたが、普段から一緒にいる錦が言うなら間違いない。特に問題があるわけではないものの、少しだけ調子が狂わされるような、振り回されているような。
軽くため息を吐いたシブキに、勇輝が冷えたペットボトルを手渡した。
「シブキ、お疲れ」
「サンキューな、相棒」
シブキは礼を言ってからキャップを開き、中の天然水を喉に流し込む。
訓練場に続く廊下にある自販機で、試合の途中に買ってきたのだろう。見れば、勇輝の手元にも同じものがあり、半分ほど中身が減っている。錦も自分の分とアクトの分で二本のペットボトルを手にしていた。
少しして戻ってきたアクトに錦はペットボトルを渡し、左手首にはめられた腕時計に目を落とす。
「まだ五時まで時間はあるな」
「どうする? もうちょいやってもいいぜ、シブキ」
アクトが尋ねると、シブキは首を横に振る。
「いや……手合わせよりも、兄さんに言われた弱点をどうにかしたい」
「ああ、アレな」
水を一口飲み、アクトは続けた。
「オマエの場合、判断力も経験値も十分あるから、場慣れしてねェとかそういう話じゃねェ。多分、心因性ってヤツだな」
赤い眼が、わずかに伏せられる。
「あんまこういうこと言うのは好きじゃねェが……トラウマ、持ってんだろ。オマエは」
柄にもなく躊躇いがちな声で零された言葉を、シブキは否定しなかった。代わりに自嘲気味に笑って、無言の肯定を返す。
「……いつまで引きずってんだって話だよなあ。やっぱり」
「シブキ、」
「まァ待ちな、勇輝」
シブキの自己否定に異を唱えようとした勇輝を、アクトがやんわりと制した。炎というより血のように少し暗い赤目は、弟の揺れる海色の瞳を静かに見下ろしている。
「いいか、シブキ。トラウマってのは自分でどうにかできるモンじゃねェんだ。オレだって、ああしてればこうしてればって引きずってること、山ほどあるぜ。それこそ、どうしようもなかったことも含めてな」
どうしようもなかった。その部分を、アクトはいやに強調して言う。
「焦んなってのはソレも含めてだ。そう簡単に吹っ切れンなら、戦龍なんて難しい仕事じゃねェよ。けど、オレたちは失った仲間の命も負ってかなきゃならねェ。だから難しいんだ」
弟に言い聞かせながらも、それは自戒の念のような音色でもあった。戦いの世界に身を置くのはそういうことだ、とでも言いたげな。
「……だから、強くなるんだろ。いくつ呪いを背負っても、前だけ見据えて立ってられるようにな」
その言葉に、シブキはずっと昔に言われたセリフを思い出す。
シブキを――いや、きっと兄弟全員を支えてきた、亡き母が残した一言。
お前は前だけ向いていろ、と。ただそれだけ。それだけの言葉が歯痒いほどに難しく、呆れるほどに力をくれたのだ。
アクトはそっとシブキの肩に手を置く。
「背負い込みすぎてンじゃねェぞ。オマエには、頼れる相棒がいるだろうよ」
彼らが前だけを見ていられる理由。それは、背中を守ってくれる相棒がいるからだ。




