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兄の声に、シブキはニッと不敵な笑みで応える。この返事が、試合開始の合図だ。
先に動いたのはアクトだった。居合の構えをしたかと思えば、瞬き一つの間にシブキの目前へ。一閃を食らう直前、シブキはどうにか反応して自分の竹刀で受け止める。
「あッ……ぶね……!」
「よく見切ったなァ、シブキ!」
「俺だってちょっとは成長してんだ、ぜッ!」
声を張り上げ、シブキはアクトの竹刀を跳ね返す。弾かれた勢いを使って大きく後退したアクトだが、シブキも負けじと追撃し、胴を狙って横に薙ぐ。その一撃を、アクトは跳び上がってかわす。どことなく錦に似た動きだ。
「成長してる、か。いいねェ。けど、口で言うのは簡単だ」
着地したアクトの口角が意地悪く三日月を描く。なにか、企んでいる。
「じゃ、コレならどうする?」
警戒したシブキに、アクトはあろうことか背を向けて――でたらめな方向に走り出した。
否、正確には、決してでたらめなどではない。標的にされたのは、勇輝だ。
「何して……ッ!」
状況が理解できないが、問いただしている暇もない。アクトの強みはスピードだ。戸惑っている猶予など、あるはずがなかった。思考が回り出すより先に、足が動く。
アクトの竹刀が勇輝に届くより一瞬早く、シブキが二人の間に割り込んだ。防御は間に合わない。もともと、シブキよりアクトの方がずっと速いのだ。無理やり瞬間速度を吊り上げて滑り込んだシブキに、次の行動に出る余裕はなかった。
しかしアクトはシブキにも勇輝にも竹刀を当てず、わざと角度をずらして空振りさせる。
「なんてな。攻撃なんざしねェよ」
そう言ってケラケラと笑うアクトを見て、シブキは詰めていた息を一気に吐き出した。
「は、ぁ……ったく、紛らわしいのはやめてくれ……」
うるさく拍動する心臓を落ち着かせるように胸に手を当て、何度か深呼吸を繰り返す。もしこれが実戦だったら、などという縁起でもないイメージが、脳裏にこびりついて離れない。
「わりィわりィ。オレは騙し手が得意な闇龍なんでね、フェイントしたらどう反応すんのか気になっちまって」
「ほんっとに勘弁してくれよ……」
「悪かったって。……けどな、何も考えなしにやったことじゃあないんだぜ」
その一言とともに、アクトの表情は一転して真面目なものに変わる。
「今ので、オマエがしょっちゅうケガして帰ってくる理由がよくわかった。なァシブキ、オマエ今、何考えて勇輝を庇った?」
兄の質問の真意がわからず、シブキは眉を下げた。
「何を……って、そりゃ、守らねえとって」
「んじゃ、相棒守って、その後は?」
「後……?」
リミットを外して全速力で走ったおかげで、酸欠気味のシブキの頭はろくに回っていない。弟にオウム返しをされたアクトは、大げさにため息を吐いた。
「やーっぱりなァ。オマエ今、完全に盾になろうとしてたろ」
アクトの指摘に、シブキより先に庇われた勇輝の方が反応した。今まで覚えていた違和感、歯痒さの正体は恐らく、それだ。
「いいか、シブキ。守るってのは盾になることじゃねェ。自分が傷つくことでもねェ。オマエのさっきの行動は、ほとんど自殺と一緒だ」
「俺は別に死に急いでなんか、」
「ないよなァ、わかってるぜ」




