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「武器が違う、相手が攻撃に転じてこなかったことも違う。それと……」
もう一つ、ある。
勇輝の視線は、己の左手へと落とされた。
「……波動術を使えないこと」
「その通り」
錦に後ろを取られた際、勇輝は咄嗟に左腕を引いた。半ば条件反射で"射光線"を撃とうとしたからだ。しかし、龍であるシブキ相手であればまだしも、人間に向けて波動術を使うわけにはいかなかった。
「お前の波動術は確かに強力だ。それ故に頼りすぎている。シブキの龍結晶であれば、もっと最適な足止めができたはずだ」
シブキが、正確には水龍が使う技のひとつに、"トラップバブル"というものがある。"シールドバブル"の派生技で、これは泡を防御でなくその名の通り罠として使う技だ。対象を泡の中に閉じ込め、動きを封じる"トラップバブル"ならば、錦の言うように人間相手でも使用できただろう。
龍と龍使いが対峙するのは、必ずしも異獣だけとは限らない。時には世の理を乱さんとして、異獣に加味する人間や龍と戦わねばならないこともある。そういった場合、最も適切な行動は「倒す」ことではなく「捕縛」することだ。
"精神拘束"もあるとはいえ、あまり頻発できる技ではない以上、いざという時に波動術に頼らない戦いは役に立つ。
しかし重要なのはそれだけではない。
「一番の問題は、俺の動きにほとんどついてこれなかったこと。初動からずっと、お前の反応はワンテンポ遅かった」
それは暗に、実戦であれば死んでいてもおかしくない、ということだ。
「お前はパワーも体力も身体能力も普通以上だが、戦いの中で活かせていない。体、というよりも思考が、戦闘のスピードに追いついていないように見える」
ひとえに経験不足が響いているのだろうが、実戦にハンデなどというものはない。早急に直すべき欠点であることは確かだ。
錦は話し終えると、大きく跳び上がって勇輝の頭上を越え、反対側に着地する。ほとんどのタイムラグもなくすぐに振り返った勇輝を見て、錦は感心したように目を細めた。
「反射神経は悪くない。ならやはり、速さに慣れることだな」
くるりと反転して勇輝に向き直った錦の左目は、どことなく楽しそうな色を宿している。
「任務までの待機時間で特訓したいなんて言い出すバカ真面目、そうはいないからな。せっかくだ。俺の――錦家に伝わる忍の動き、しっかり叩き込んでやろう」
「よろしくお願いします」
いつも通り、抑揚の少ない落ち着いた声で返事をした勇輝だったが、アメジストの瞳は真剣みを帯びている。今の彼にあるのは焦りではなく、まっすぐに自身の弱さと向き合おうとするひたむきな心だ。
「おお、慎也のヤツ、久々にやる気だな」
訓練場の端で二人の訓練を見ていたアクトが、錦の様子に笑みを浮かべた。
隣に座るシブキも、兄の言葉に頷く。
「教師とか向いてそうだよな、副支部長」
「苦無の感覚でチョーク投げてきそうだけどな。しかも百発百中で」
「怖っ……チョーク投げとかひと昔前だろ、さすがに」
「ッハハ。……にしてもアイツ、だいぶ聡一に似てきたなァ」
アクトの赤い眼が、懐かしむように細められた。




