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仕事の話に変わると、途端に彼らの間の雰囲気は引き締まる。龍と龍使いとはそういうものだ。
柚木は少し声音を下げて、任務の概要を話し始めた。
「昨晩、李雨河町で大量のネズミの死体が見つかった。同時に、波動探知機が李雨河での異獣反応を多数検知した」
「ネズミ……っつーと、鉄鼠ですかね」
「そう。危惧しているのは、下位種異獣・鉄鼠の大発生だ」
柚木は中央の机に一枚の書類を提示した。鉄鼠に関する資料のようだ。
紙の右上に載せられた写真には、異形のネズミが描かれている。肉食獣のように異常発達した牙と、黒い液体を垂らした濁った眼球。写真の横に、強い瘴気の影響で死んだネズミが異獣化した姿である、と注釈があった。
勇輝が資料にざっと目を通し、顔を上げたのを確認してから、柚木は話を再開する。
「鉄鼠の発生前は、必ずネズミの大量死が起きる。翌日の夜から、鉄鼠と化したネズミの死体が行動を始めるんだ」
「日本での大規模な鉄鼠化は最近じゃ起きてねえし、勇輝は初めてだよな」
「ああ」
返事をして、勇輝は再度資料に目を落とす。
鉄鼠は通常のネズミよりも高い凶暴性を持ち、持ち前の鋭い牙で積極的に人を襲う。ネズミがもともと持っていた病原菌が拡散される上に、鉄鼠たちの瘴気に当てられてしまう一般市民も少なくない。下位種といえど、早いうちに討伐しなければ、町一つ程度なら簡単に滅茶苦茶にされる。
すなわち、今回の任務は。
「君たちには、今晩李雨河町に発生するであろう鉄鼠の群れを討伐してほしい。いかんせん数が多いから、少し骨の折れる仕事になると思うけど」
「もちろん引き受けますよ。……ところで、鉄鼠が発生してるってことは、付近に別の異獣もいるっつーことですよね」
シブキが懸念しているのは、鉄鼠の群れよりそちらの問題だった。
鉄鼠のように、普通の生き物が異獣化する現象は、それだけ強い瘴気の発生源が周辺になければ起こらない。瘴気は異獣の放つ、波動に似た見えないエネルギーだ。つまり、異獣がいないところに、後天性変異型異獣である鉄鼠は出現しないのである。
「さすが、見落とさないね。シブキくんの言う通り、ちょうど昨日から、李雨河町に中位種異獣・シニガミコウモリの反応を確認している。数は十体、かなりの量だ」
そう言って、柚木はシニガミコウモリの資料を勇輝に手渡した。
その名に違わずそれはコウモリに酷似したかたちをしているが、頭部には骸骨を被り、牙はサーベルタイガーのように長く鋭い。翼の一番外側の軸、普通のコウモリでいう第三指に当たる部分が皮膜を越えて突き出ており、刃物状になっている。
骸骨は自らの頭蓋骨らしく、カメの甲羅に近い仕組みで皮膚の外を覆っているようだ。牙に出血毒、第三指の刃に神経毒を有していることも資料に記載されていた。
「また毒持ちか……」
毒を持つ異獣であるクレナイスズメとオオアゲハに散々翻弄されたのは、記憶に新しい。
思い出して顔を顰める勇輝に、シブキが軽く頷いた。
「こいつらまで襲ってくりゃ、さすがに二人じゃ厳しいだろうな」
「当然、君たちだけに行かせようだなんて考えてないよ。まだ療養明けだし、無茶はさせたくないからね。今回はもう一組、同行を頼んでる」




