第十二話「一歩前進」1/12
土曜日。由紀がシブキたちの見舞いに来てから、五日が経過した。ようやく療養期間を終えたシブキと勇輝は、李雨日市に高くそびえるオフィスビル――龍使協会日本支部に訪れていた。
外出許可が出されたのは水曜日だ。李渦高校への登校は認められたものの、異獣討伐の任務は与えられなかった。
療養が終わったら直接支部で来るよう支部長から連絡があったため、二人はここまでやって来たのである。
ビルの中に入ると、受付の女性が二人を確認して柔和な笑みを浮かべた。
「ご無沙汰しております、黒神様、シブキ様。お怪我の方は?」
「お疲れ様です、桃瀬さん。大体治ったんで、もう平気ですよ」
フランクに微笑んでシブキが返す。
「それはよかった。……今、支部長に連絡いたしますね。二階客室にてお待ちくださいませ」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げてから、二人は二階へと続く階段を登り始める。踊り場まで来た時、勇輝がふと口を開いた。
「毎度思うが……お前、よく名前覚えてるな」
「まあ、名札ついてるし」
「わざわざ確認してるのか」
「そりゃあ……ってか逆にお前は見ねーの?」
シブキにとっては無意識のうちにしていることだ。首を傾げて尋ねると、勇輝は頷いて「見ない」と返す。
ある種のジェネレーションギャップのようなものを感じて、シブキはそういうもんか、と呟いた。
そんな会話を交わしているうちに二階にたどり着いた。廊下で二人を待っていたらしい柚木が近づいてきて、穏やかに微笑む。
「やあ、二人とも。来てくれてありがとう」
「いえ。こっちこそ、心配かけちまってすみません」
シブキが言うと、柚木は首を緩く横に振った。
「こちらの見通しも甘かったよ。"狂化"現象を軽く見てしまったのは、僕の落ち度だ」
話しながら、柚木は二人を客室へと先導する。
「あれは俺らが油断したからで……」
「前支部長なら、君に怪我はさせなかった。僕の采配が未熟なのは事実さ」
シブキの言葉をはっきりと否定して、柚木はそう言いきった。前任の支部長は天才肌で、優秀だったと聞く。若くしてその任を継いだ柚木が、結構な重圧に晒されていることは想像に容易い。
しかし柚木は、己の欠点をはっきりと認めながらも、卑屈さなどは感じさせない。自身の足りない部分と向き合って、それでも潰れない芯の強さは、彼が支部長たる所以といったところだろう。
客室の前に到着し、柚木は扉を開けてシブキと勇輝を中に通す。それから自身も入室し、静かに戸を閉めた。
「さて、失敗に落ち込んでいる暇はないね。本当なら、君たちにはもう少し休んでもらいたいところだけど」
「俺らはいつでも動けます。お構いなく」
迷いのない声でシブキが返答する。勇輝も黙ったまま、けれど強い意思を眼光に宿して頷いた。
「そう言うだろうと思ったよ。君たちは、支部非所属のコンビの中じゃ、一番やる気があるからね」
「……協力はしますし任務も請け負いますが、俺は支部員になるつもりはありません」
また勧誘されると警戒したのか、少々圧のある声色で勇輝が言う。妙に頑なに支部入りを拒む勇輝の態度は相変わらずだ。
「あはは、わかってるって。いい加減僕も学んだよ。今日呼んだのはその話じゃない。頼みたい任務があってね」




