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開封を見守っていた勇輝は紙箱と紙袋を交互に凝視して、それから静かに口を開いた。
「……この店名、李渦駅近くのケーキ屋じゃないか」
「駅近?……あそこ、看板見ただけだけど、結構な値段してなかったか?」
「光輝と一度入ったことはあるが……それなりの額だ」
「じゃあ由紀のやつ、わざわざ……」
由紀はまだ高校生だ。話を聞く限り、アルバイトなどもしている素振りはなかった。そんな彼女にとって、これはなかなかに高額な買い物だったに違いない。
「しかもご丁寧に二人分か。……さすがに負けたな」
「いや何と戦ってんだよ、オメーは」
「さあな。こっちの話だ」
どうにも田村由紀という少女は、単なる馬鹿な猪女では済ませられないらしい。今日だけで嫌というほどそれを知らしめられた勇輝は、負けたなどと言う割に晴れやかな表情だ。
シブキには何があったのかはわからないが、勇輝と由紀の仲がほんの少しだけ近くなったのであろうと大雑把に理解した。弟妹を見ているような微笑ましい気分になりながら、シブキは箱の中身を勇輝に見せる。
「で、お前どっちにする?」
「あいつの差し入れだぞ。お前が選ぶべきだろう」
「んじゃ、俺はこっちで」
シブキが指したのはレアチーズケーキだ。特にこだわりがあったわけではないから、どうせなら相棒が選びそうな方を残してやろうと思っての選択だった。
シブキの指した方を確認し、勇輝は再度部屋の出口へ向かう。
「皿、取ってくる」
「そんくらいなら俺が……」
「たまには黙って世話を焼かれていろ、怪我人」
立ち上がろうとしたシブキを制するその声には、わずかに棘があった。
勇輝は部屋を出る寸前、やや不満げに座り直した相棒の方に振り返る。
「……しつこいようだが、シブキ。お前は最近無茶をしすぎだ」
「そうかぁ? 俺としちゃフツーなんだが」
「お前はいいかもしれないが、俺がよくないんだ」
それは強い口調というよりも、どこか憂いを帯びた声で。
「無理をするなというのは、確かにそれこそ無茶振りかもしれない。そういう仕事だ、わかってる。だが、強がりはよせ」
一言一言が軋むように、苦しげに捻り出されるように。
「もう少し、人に頼ることを覚えろ」
言い終えると、勇輝はそっと部屋を出ていった。
また、静寂が訪れる。部屋にはシブキ一人が残された。たったそれだけのことなのに、何もかもに取り残されたような感覚だ。
(……ああ、そういうこと)
彼の言わんとすることが、わかってしまったから。見ないふりをしてやり過ごし続けたものを突きつけられて、息を潜めていた罪悪感が襲ってくる。
自身を落ち着けるように大きく息を吐いて、床に座るシブキは背後にあったベッドに頭を乗せた。
(命の勘定に、俺自身もちゃんと含めろ……ってか)
だらんと両腕の力を抜いて、天井を見上げる。
(……あんな顔、させたいわけねえのに)
いかんせん難しいのだ。一度、卑屈になってしまったら。
くだらない考えだ。これ以上はよろしくない方向に傾くだけだ。わかりきっていたから、シブキはぱっと上半身を起こし、心奥で渦巻く泥のような感情を払拭するように頭を振った。
「はー……ったく、なんでこうもセンチになってんだ、俺は」




