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「えっと、あの……実は昨日、変な……カイブツ? に襲われて。それで、助けてくれた人に名刺もらったんですけど、お礼言いたくて」
「記載された住所を頼りにここへいらした、と。……参考までに、カイブツというのはどんな姿でしたか」
「え? えーっと……おっきい女の人みたいな鬼で、和服でツノが生えてて、目がいっぱいあって、あとなんか怖い感じの……」
「――百々目鬼か。李渦公園の一件ですかね」
「知ってるんですか?」
「まあ、知っているというか」
窓の外から入る陽光を反射して、少年の黒い瞳がきらりと輝く。
「そういう化け物関連の事件を請け負っているのが、ここ――龍使協会ですので」
「ひぇー、そうだったんですかぁ。あ、じゃあさっきの、支部長さんが言ってた任務って、もしかして」
「あなたが遭遇したような化け物どもの討伐任務です」
「すごいなぁー。……あっ! じゃああの人もここにいます⁉︎ 助けてくれた人!」
ワンテンポ遅れて本命を思い出した由紀に、少年は考え込むような仕草を見せる。
「李渦公園で任務に当たったのは、黒神勇輝と龍魔飛沫という者ですが、彼らは――」
「そう! 龍魔飛沫さん! その人です!」
「……彼らは、支部員ではありません。こちらから要請して動いてもらう戦闘員ですが、この建物内には」
「そ……そうですか……」
あからさまに萎れる由紀の姿を横目で見つつ、少年は眉を寄せてスマートフォンを取り出す。
「彼らの電話番号なら把握しています。呼び出しいたしましょうか」
「えっ……いいんですか⁉︎」
「来るか来ないかは彼ら次第ですが」
「お願いします、ぜひ!」
「……承知しました」
喜怒哀楽のわかりやすい女である。ぱっと顔を明るくした由紀を一瞬盗み見て、少年は少し呆れたような顔をしながら端末の画面を操作し、耳に当てる。
「…………もしもし、錦だ。……ああ。突然で悪いんだが、黒神、シブキと支部まで来てくれ。なるべく早く」
(やった、あの人に会えるんだ!)
「……いや、違う。シブキと会いたいという少女が来ていてな。百々目鬼討伐の際に助けられた一般市民だそうだ。礼を言いたいのだ、と。…………ああ、すまんな。頼む」
(――というか)
話し相手がいなくなって手持ち無沙汰なのか、由紀は電話している少年をじっと見ながら考え始める。
(あの子、やっぱり中二病なのかな? どう見てもシブキさんたちの方が歳上だと思うけど、タメ口だし、なんとなく圧みたいなのがある気が……)
言葉にすれば結構、いやかなり失礼な考察だが、口にさえ出さねばバレることもない。
しかし少年の方は視線に気づいているようで、時折由紀の方を肩越しに見やっているが、絶賛妄想中の由紀はさっぱりわかっていない。
程なくして少年は端末を耳から離し、由紀の方に向き直る。
「田村さん」
「はい!」
「十分ほどで到着するそうです。それまでしばしお待ちを」
「了解です、ありがとうございます!」
満足げに笑って返事をする由紀に、少年は僅かに表情を緩める。その姿はどことなく、年齢には合わないように見えた。背伸びしているというよりも、達観しているような。
由紀の関心が自分に集まっていることを察した少年は、「どうされましたか」とやんわり尋ねた。




